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粗方薄橙色話⑤
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ふっと目が覚めた時、ベッドの感触がいつもと違うことに違和感を覚えた。
そうだ……ここ……地下牢だった。
そう思って、うっすらと目を開けた。
皇と同じベッドで目覚めた朝は、たいがい目を開いた瞬間、皇がオレを見下ろしていることが多い。
そこに皇の視線があると思って開いた視界の先に、ぐっすり眠っている皇の寝顔があった。
「……」
ぎゅうっと、胸が苦しくなる。
こんな風に眠っている皇を、見たことがないわけじゃないけど、レアだ。
他の人とは眠れないという皇が、オレとは眠れると言っていたのが嬉しかったけど、オレが先に寝て、あとから起きることが多いから、それが本当なのか、最初はちょっと疑うこともあった。
でも今……こんな無防備に、皇がオレの横で、寝てる。
寝顔はいつもより少し幼くて……かわいい、皇……。
この寝顔は……本当に、オレだけの、皇だ。
皇の頬をそっと撫でると『ん』と、皇が片目を薄く開いた。
「ごめん。起こしちゃった」
「何のいたずらをしようとしておった?」
オレの手を掴んで、また目を閉じた皇がふっと笑う。
「髭ボサボサのお前も、案外イケてたなって、思い出してた」
「やはり、髭面の余も良いと思っておったのではないか」
「……オレも、髭伸ばしてみようかな」
そう言うと、両目を開いた皇が、オレにふっとキスをした。
「伸ばせるものならな」
「は?」
そういえばオレ……最近、髭剃ってない……かも。もともと産毛程度だったけど、その処理も要らないくらいで……って、あれ?
「そなたのところの六位 は、おかしな薬をよう作る。そなたもそうと知らずに、何やら盛られておるやもしれぬな」
「ええっ?!」
「そなた、脇も下も、そうそう生えておらぬではないか」
「……」
確かに……。脇毛も下の毛も、何か、どんどん薄くなってる気はしてた。脇毛はまだしも、下の毛はちょっと、気にしてたんだ。それが、むつみさんの薬のせい?!
「まさか!お前の命令?!」
「そなたの毛があろうがなかろうか、余は別段気にせぬ」
オレを抱き寄せた皇が『ここには、毛が生えておるよりないほうが、触り心地は良いかもしれぬが』と、オレの胸に手を置いた。
「オレに胸毛が生えても、気にしないの?」
「せぬ。……それが、そなたのここを隠すようなら、多少気にはするやもしれぬが」
そう言って皇は、オレの乳首をツンっと押した。
「ちょっ……」
皇はふっと笑って『そなたの乳頭は小ぶりゆえ』と、さらにツンと押すので『もう駄目』と、胸を隠すと『そなたの言う”駄目”も良いものだな』と、いやらしい悪代官みたいなことを言いながら笑うので、オレも吹き出してしまった。
「あのまま寝入っておった。ここには風呂もあったはず」
オレのおでこにキスをしてベッドから出た皇は、裸のまま部屋の奥に歩いて行った。
部屋の奥から『あったぞ。入るか?』という皇の声が聞こえたと思ったら、ボチャンと、皇がお風呂に入っただろう音が聞こえた。
え?飛び込んだ?……子供みたい。
オレも、ベッドの下に落ちている寝間着を拾って、お風呂場に向かった。
「お風呂、沸いてたの?」
肩までお風呂に浸かる皇にそう声を掛けながら、浴槽の脇まで急いだ。
「温泉が湧いておるようだ」
「え?ここ、都内だよね?」
皇が手を引くから、急いで寝間着を脱いで浴槽に浸かった。
……洗ってもないのに。
そう思ったけど、皇も飛び込んだみたいだから、いっか。
「日本は、掘ればどこでも温泉が出る」
「んなわけないだろ!」
皇がオレを後ろから抱きしめて、ふぅっと大きく息を吐いた。
「……体、洗わないで入っちゃった」
「余も同じだ」
「お前、飛び込んだだろ?」
「ん?……聞こえたか?」
「子供みたい」
皇はふふっと笑って、オレの肩に唇を付けた。
「浮かれておる」
「……オレも」
皇の頭にキスをしようとすると、オレのほうに顔を向けた皇と、視線がかち合った。
目を伏せると、キス、された。
舌を絡ませるキスを何度か交わすと、体が熱くなって、のぼせそう。
「のぼせる」
皇の胸を軽く押すと、皇はそこで、オレの肩に額を付けた。
「昨夜あれほど求めたに……まだ、欲しい。そなたを知らぬでおった余は、一体何だったのだろうかと思う」
「え?」
「そなたは信じぬと申したが、真、余は不能だった。それどころか、人と肌を重ねるということを嫌悪しておった」
「他の人とも、嫌じゃなくなったの?」
「そなた以外、その気も起きぬゆえ試してはおらぬ」
「治らないで……いいのに」
「……」
「オレだけ……嫌じゃないなら……いいのに……」
急に皇は、オレを抱き上げて浴槽から出ると、そのままお風呂場を出て、スタスタと向かったベッドに、オレを放り投げた。
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