567 / 584

粗方薄橙色話⑤

✳✳✳✳✳✳✳ ふっと目が覚めた時、ベッドの感触がいつもと違うことに違和感を覚えた。 そうだ……ここ……地下牢だった。 そう思って、うっすらと目を開けた。 皇と同じベッドで目覚めた朝は、たいがい目を開いた瞬間、皇がオレを見下ろしていることが多い。 そこに皇の視線があると思って開いた視界の先に、ぐっすり眠っている皇の寝顔があった。 「……」 ぎゅうっと、胸が苦しくなる。 こんな風に眠っている皇を、見たことがないわけじゃないけど、レアだ。 他の人とは眠れないという皇が、オレとは眠れると言っていたのが嬉しかったけど、オレが先に寝て、あとから起きることが多いから、それが本当なのか、最初はちょっと疑うこともあった。 でも今……こんな無防備に、皇がオレの横で、寝てる。 寝顔はいつもより少し幼くて……かわいい、皇……。 この寝顔は……本当に、オレだけの、皇だ。 皇の頬をそっと撫でると『ん』と、皇が片目を薄く開いた。 「ごめん。起こしちゃった」 「何のいたずらをしようとしておった?」 オレの手を掴んで、また目を閉じた皇がふっと笑う。 「髭ボサボサのお前も、案外イケてたなって、思い出してた」 「やはり、髭面の余も良いと思っておったのではないか」 「……オレも、髭伸ばしてみようかな」 そう言うと、両目を開いた皇が、オレにふっとキスをした。 「伸ばせるものならな」 「は?」 そういえばオレ……最近、髭剃ってない……かも。もともと産毛程度だったけど、その処理も要らないくらいで……って、あれ? 「そなたのところの六位(むつみ)は、おかしな薬をよう作る。そなたもそうと知らずに、何やら盛られておるやもしれぬな」 「ええっ?!」 「そなた、脇も下も、そうそう生えておらぬではないか」 「……」 確かに……。脇毛も下の毛も、何か、どんどん薄くなってる気はしてた。脇毛はまだしも、下の毛はちょっと、気にしてたんだ。それが、むつみさんの薬のせい?! 「まさか!お前の命令?!」 「そなたの毛があろうがなかろうか、余は別段気にせぬ」 オレを抱き寄せた皇が『ここには、毛が生えておるよりないほうが、触り心地は良いかもしれぬが』と、オレの胸に手を置いた。 「オレに胸毛が生えても、気にしないの?」 「せぬ。……それが、そなたのここを隠すようなら、多少気にはするやもしれぬが」 そう言って皇は、オレの乳首をツンっと押した。 「ちょっ……」 皇はふっと笑って『そなたの乳頭は小ぶりゆえ』と、さらにツンと押すので『もう駄目』と、胸を隠すと『そなたの言う”駄目”も良いものだな』と、いやらしい悪代官みたいなことを言いながら笑うので、オレも吹き出してしまった。 「あのまま寝入っておった。ここには風呂もあったはず」 オレのおでこにキスをしてベッドから出た皇は、裸のまま部屋の奥に歩いて行った。 部屋の奥から『あったぞ。入るか?』という皇の声が聞こえたと思ったら、ボチャンと、皇がお風呂に入っただろう音が聞こえた。 え?飛び込んだ?……子供みたい。 オレも、ベッドの下に落ちている寝間着を拾って、お風呂場に向かった。 「お風呂、沸いてたの?」 肩までお風呂に浸かる皇にそう声を掛けながら、浴槽の脇まで急いだ。 「温泉が湧いておるようだ」 「え?ここ、都内だよね?」 皇が手を引くから、急いで寝間着を脱いで浴槽に浸かった。 ……洗ってもないのに。 そう思ったけど、皇も飛び込んだみたいだから、いっか。 「日本は、掘ればどこでも温泉が出る」 「んなわけないだろ!」 皇がオレを後ろから抱きしめて、ふぅっと大きく息を吐いた。 「……体、洗わないで入っちゃった」 「余も同じだ」 「お前、飛び込んだだろ?」 「ん?……聞こえたか?」 「子供みたい」 皇はふふっと笑って、オレの肩に唇を付けた。 「浮かれておる」 「……オレも」 皇の頭にキスをしようとすると、オレのほうに顔を向けた皇と、視線がかち合った。 目を伏せると、キス、された。 舌を絡ませるキスを何度か交わすと、体が熱くなって、のぼせそう。 「のぼせる」 皇の胸を軽く押すと、皇はそこで、オレの肩に額を付けた。 「昨夜あれほど求めたに……まだ、欲しい。そなたを知らぬでおった余は、一体何だったのだろうかと思う」 「え?」 「そなたは信じぬと申したが、真、余は不能だった。それどころか、人と肌を重ねるということを嫌悪しておった」 「他の人とも、嫌じゃなくなったの?」 「そなた以外、その気も起きぬゆえ試してはおらぬ」 「治らないで……いいのに」 「……」 「オレだけ……嫌じゃないなら……いいのに……」 急に皇は、オレを抱き上げて浴槽から出ると、そのままお風呂場を出て、スタスタと向かったベッドに、オレを放り投げた。

ともだちにシェアしよう!