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粗方薄橙色話⑦

何も着ないまま皇に抱きしめられて、ベッドの上で色んな話をした。 オレは一度も出たことのない納会の様子について、とか。 竜宮でオレが何をしていたのか、とか。 シロとシシは、どうやらシシのほうが嫁らしいってこととか。 候補に選ばれないだろうオレが狙われた理由は、あげはを杉の一位さんに小姓ですって紹介してしまったオレ自身にあったってこととか。 皇は『そなたを特別に扱えば、いずれ大変なことになると、駒にも大老にも言われておったに、そなたに小姓をつけた余が原因だ』と、オレを抱きしめた。 『お前、そうやってなんでも自分のせいにするんだから』と、皇の脇腹をつつくと、ビクッと体を震わせた皇が『それはそなたであろう?杉の一位が犯した罪の始まりがそなたであるように申すでない。杉の一位は、そなたが言わずとも、いずれ小姓の存在に気付いたはず。隠しておったわけではない。そなたが罪を背負おうとするゆえ、余がそれを背負いたくなる。余がそなたに小姓をつけたのは、そなたを思うがゆえだ。責めるな。喜べ』と、脇腹を突き続けるオレの手を掴んで、指にキスした。 オレは、それを聞いて吹き出した。こいつは本当に、殿様なんだから。 『お前がオレに小姓を付けてくれたのは、あげはに頼まれて断れなかったからだろ』と言うと『それもあるが……余がそなたを思うてしたことに偽りはない』と、顔をしかめた。それを聞いて、オレはまた大笑いした。 「今、何時くらいだろう?」 「時間なぞ気にするでない。そなたは余だけ気にしておれ」 皇は、またオレをぎゅうっと抱きしめた。 「オレ……お前のこと、たまにすごく可愛いと思う」 「良いではないか。かか様もよく、とと様を可愛いとおっしゃる」 「お館様って、見た目はかっこいいけど、中身はものすごい癒し系だもんね」 「ああ……余が幼き頃、とと様が毎晩のように絵本を読んで寝かしつけてくださった」 「うわぁ、やってくれそう!」 「それゆえ、とと様の声を聞いておると眠くなるのだ。会議なぞ共に出席させて頂くと、眠気を飛ばすのに苦心する」 「普段は人前で眠らないなんて言うお前が眠くなるなんて、お館様の声は、ある意味お前の弱点だね」 そう言って笑うと、皇は『そうだな。とと様のお声は、余を安心させる』と、オレをまたギュッと抱きしめた。 「ああそうだ。我らの子には、余が読み聞かせをして、寝かしつけてやろう」 「……」 その言葉に泣きたくなって、皇の胸に顔を埋めた。 ついこの前まで、お前とこんな風に、未来の話が出来るなんて思ってもいなかった。 お前のもとに来る子を、オレはどんな立場で見るんだろうって……そんな不安ばかり抱いていたのに。 我らの子……なんだね。 お前もこの前、同じようなことを言ってたけど、オレも今、しみじみ思った。オレのこの先の人生には、お前がいつも、いるんだなって。 「どういたした?」 泣きべそをかいているオレの頬を指でこすりながら、皇が心配そうに聞いてくる。 「嬉しくて……」 「ん?」 「だって……これからは一緒にいられるんだなって……。だって……この前まで、お前に会いたくたって、お前が渡ってくれるの、待ってるしか出来なくて……ずっと……つらかったよ、オレ……」 そう言うと、目の前の皇はふっと口端を上げた。 「何喜んでるんだよ!オレがつらかったって言ってるのに!」 「いや……あまりに愛らしいことを申すゆえ、つい顔が緩んだ」 「はぁ?!」 「余とて、許されるものなら、毎夜そなたに会いに行きたかった」 「……」 「そなたとて、余がつらかったという話をしておるに、顔が緩んでおる」 顔を見合わせて、二人でふはっと笑いながらキスをした。 『ああ、腹が減らぬか?』と、思い出したように聞かれて、そういえばいつからか何も食べていないことを思い出した。 『かか様に持たされた物がある』と、皇は、昨日ここに来た時に持っていた大きな籐の籠を指した。 母様が用意してくれていたという着物に着替えて、二人で籠の中に入っていた、おにぎりや果物を食べて、また一緒にベッドに横になった。 「そうだ!母様が、千代には休息が必要だって言ってたのに、全然休んでないじゃん!」 「余に足りないのは、休息ではない。そなただ」 「……もう、十分足りただろ?」 あんなに……したんだから。 皇をちらりと伺うと、何だか拗ねたような顔をしている。 「何?」 「……足りぬ」 皇が、オレをベッドに押し倒してキスをしてきた時、バンっ!と、地下牢の入り口が開く音がして、オレたちは急いで体を離した。 『起きてる?』と、入ってきた母様の後ろから、いちいさんが顔を出した。 「いちいさん!?え?病院は?」 「雨花様が牢に入れられたと聞き、急ぎ退院して参りました」 「うぇっ?!」

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