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粗方薄橙色話⑨

✳✳✳✳✳✳✳ そのあとの数日は、色々なことがあって、ものすごく忙しかった。 梓の丸に、色んなところから色んな品物が送られてきて、屋敷の中で一番広い部屋が、ちょっとした倉庫みたいになるっていう事態が起きたり……。 全部オレへの釈放祝い的な物で、受験勉強のかたわら、そのお礼状を書くのに、結構な時間を費やした。 その間も皇は、ちょくちょくオレのところにお忍びでやってきて、オレが必死でお礼状を書いているのを見ると、ちょっとだけ代筆をしてくれた。 若様の代筆とか贅沢だな……なんて思ってたけど、代筆してくれた分は、きっちり体で払えと言われ……体で払えって……まぁ、そのままの意味で、きっかり払わされた。 大老様の切腹を止められたのは高遠先生のおかげだってことで、皇から結構な謝礼が高遠先生に出されたらしい。 先生はそのお金で、新車を買ったと言っていた。 謝礼って、どんだけ出たの? まぁ、大老様の命の恩人とも言えるわけだから、それを考えたら安いくらいだけどさ。 それと……梓の丸に戻った日から、毎日の日課になった、あげはと行くぼたんのお見舞いの何日目かに、ぼたんが年明け早々にも、退院できるかもしれないという報告も受けた。 深の間からの帰り道は、あげはと色んな話をした。 切腹騒ぎの副産物で、何故か占者様人気が爆上がりしているらしいって話とか……。 それから……年を越す前に、竜宮に置きっぱなしになっている物がないか確認して欲しいと大老様に言われたので『年明け、あの無人島で何かあるんですか?』と聞いたところ『年内で島を返すので』と、言われてからの一連の流れは、年内のあれこれの中では、オレ的に一、二を争う”事件”だった。 『島を返すって……大老様の持ち物ではなかったのですか?』と、聞くと『あの島は藍田家ご長男様の所有です』との返事で……。 「あいだ……って、衣織の?!」 「はい。あの島は、衣織様のお兄様の、静生様が所有する島です。鎧鏡家の誰も知らない場所を探すには、一門以外のお力をお貸し頂くのが良いと思いまして」 「うえ?!」 「若は、良いご友人をお持ちです」 そんな話を聞いた翌日、大老様から聞いたその話をしながら、皇が操縦するあの未確認飛行物体で、竜宮に忘れ物がないか確認に向かった。 皇は、静生さんから何にも聞いてないと憤っていたけど、竜宮でオレたちを待ってくれていた静生さんに会って数分で、静生さんが大老様を助けた件を黙っていたことを許していた。 オレはといえば、この時初めて、皇の友達に、嫁だって紹介してもらって、めちゃくちゃ浮かれたわけで……。 静生さんのことは遠目でしか見たことがなかったけど、近くで見るとものすごい、なんていうか……迫力のある人だった。静生さんは、皇と同じくらい背が高くて、さらに皇よりも明らかにガッシリした体格だったから。 島の中央にある屋敷で、オレは静生さんに、皇の小さい頃からの話を聞いた。 皇が通っていた特殊な幼稚園?に、一緒に通っていた仲間は、自分たちのことをヤングマスターズの略で、ヤンマーズって呼んでるってこととか……。 今度は、そのヤンマーズのみんなと集まろうって約束をして、オレと皇は島をあとにした。 受験勉強とそんなこんなで、地下牢を出てからの数日は、あっという間に過ぎていった。 大晦日の夜、皇は何をしてるかなぁ……なんて思いながら、等間隔に焚かれた松明の明かりを部屋の窓からぼうっと見ていた。 今夜12時、年が明けたと同時に、候補は全員、本丸に集められる。 そのあと一族と一緒に、サクヤヒメ様の祠にご挨拶に行って、そのあと日の出から日の入りまで、家臣さんたちの挨拶を三日間受け続ける……っていうのが、鎧鏡家の新年一発目の年中行事だ。 初めて新年の行事に参加した前回、熱を出したくらいだ。結構、過酷な三が日なんだよね。少し寝ておかないと……と、ベッドに入ろうとすると、部屋の窓枠を、シロがカリカリと引っ掻いた。 ……なんかコレ、懐かしいなぁ。 そう思って窓を開くと、皇が窓の外からオレを見上げていた。 ひょいっと窓から入って来た皇は、窓辺で寝ていたシロの頭を一撫でした。 「どしたの?行事の支度は?」 「ああ」 返事になっていない返事をして、皇はオレをひょいっと抱き上げると、ベッドに座らせてキスをした。 「駒様、ここにいるの知ってるの?」 「余が部屋におらねば、いるのはここだとわかろう」 皇に押し倒されて、唇をハムッと咥えられた。 もぐもぐと、唇で唇を食べるようにキスをした皇は、オレの頬に手を置いて、じっと見下ろした。 「……雨花」 「ん?」 「今年も、宿下がり致すのか?」 「うん。オレが残ってると、使用人さんたちも帰れないし」 「……」 「どしたの?」 「……離れがたい」 皇は、オレにギュッと抱きついた。 「……」 もう、どうしよう。このめちゃくちゃ可愛い若様……。

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