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粗方薄橙色話⑫

シロに無理矢理眠らされたあと、ギリギリまで寝たオレたちは、スッキリした頭で、新年二日目の行事もつつがなく終わらせた。 二日目の夜も、皇はうちの屋敷にやってきて、昨日と同じような流れで一緒に過ごし、新年三日目の行事も無事終えることが出来た。 新年の行事が終わった1月3日の夜から、候補とその屋敷の使用人は、一斉に宿下がりをする。 去年のお正月はシロが気がかりで、オレは4日の朝に宿下がりしたけど、今年はシロにお世話は必要ないってわかってるし、他の候補様と同じように、1月3日の今夜、宿下がりすることにした。 いちいさんに送ってもらった実家は、相変わらずな感じで出迎えられたけど、日本にいるはずのはーちゃんがいなかった。 あの通り魔事件のあと匿われたっていう”安全な場所”に、はーちゃんは事件後もずっといるという。 もう襲われる心配がないのは、父上だって知ってるはずなのに……。 もしかして、オレが知らない何かがまだあるの? 心配になってそう聞くと『ううん、ぜんっぜんそういうことじゃないから心配いらないわよ』と、柴牧の母様が高笑いした。 母様がそう言うなら……と、用意してもらった夕飯を食べている時、ズボンのポケットに入れておいた携帯電話がブブッと震えた。 すぐに確認すると、皇からメッセージが届いている。 『行って良いか』って……。 今夜この感じだと、父上も母様も、そんなに早く寝そうにない。 皇にはこっそり来てって言ったけど、事情を話さないと、いつまでたっても皇に『いいよ』と返事が出来そうにない。 オレは父上と母様に、今夜、皇がここに来たいと言っていると話した。 父上と母様は、こんなところに若様が泊まるの?!と、パニックになりながら片付けを始めた。 ってことは……来てもいいってことだよね?と解釈して、オレは皇に『父上と柴牧の母様に話したから、堂々と来て』と、メッセージを送信した。 それから5分としないうちに玄関のチャイムが鳴った。 なんか、嫌な予感がする。 『この忙しい時に誰?!はーい!』と言いながら、玄関モニターのスイッチを入れた母様の後ろから覗きこむと、そこに、嫌な予感の正体……皇が立っていた。 「うえっ?!」 母様と二人で同じような奇声を発したあと、オレは走って玄関に向かい、ドアスコープを覗くと、やっぱりそこに皇がいた。 「ちょっ……あっくん!あれ、若様……よね?もういらっしゃってたの?」 「オレだって、こんなに早く来ると思ってなかった」 「とにかく入って頂かないと!」 ドアを開けるとオレを見た皇が、『雨花』とオレを呼んで、ふわっと微笑んだ。 オレの後ろのほうから、ドタドタと走ってきた父上が、玄関で跳ぶように膝をつくと『若様にこのようなところに来て頂き……』なんてことを言いながら、何度も頭を下げている。 「無理を申した。すまぬ」 皇がペコリと頭を下げると、父上と母様は『めっそうもない!』と、声を揃えて頭を下げた。 ようやく皇をリビングに通すと、皇はソファに座るなり、緊張した面持ちで『柴牧家殿』と、父上に声を掛けた。 え?何、緊張してんの? 「はい!」 皇は、ソファの向こう側に正座をしている父上の前に行くと、すっと正座をして、父上に頭を下げた。 「うえっ?!」 何してんのー?! 「余から何の挨拶もないに、驚かせたことと思う」 「え?」 驚かせた? 急にここに来たこと? 確かに父上は驚いただろうけど、そんなかしこまって頭を下げるようなことじゃないじゃん! 皇は、あたふたしている父上と母様に、さらに頭を下げた。 「改めて……余から正式に、ご依頼申し上げる。雨花を……青葉を、余の嫁に頂きたい」 父上と母様とオレは一瞬黙りこくって、一斉に『えええええ?!』と、叫んだ。 ちょっ……え?!何、急に?!え? オレたちがあまりに驚いているのを見て、皇は『そなた、余の嫁になるという話をお二人にしたのであろう?』と、逆に聞いてきた。 「ええ?!言ってないよ!だってまだ、他の人たちには黙ってろって……」 「そなた先ほど、お二人に話したと、余に送って参ったではないか」 送った?あ!皇の携帯に送ったメッセージ?! 「ちがっ!あれは、嫁になるって話をしたってことじゃなくて!お前がこっちに来たいって言ってるってことを、二人に話したって意味で!」 うわぁ……皇って、たまにこういう勘違いするよね。 皇は『そうだったか』と、頭を掻いて『だが、近いうちにお許しをいただきに来るつもりでおった』と、また父上と母様に向き直った。 「何やら誤解はあったが……先ほど言うたことは、真だ。余は、青葉を嫁にと決めた。お二方が大事に育てて参った宝……この先は余が、お二方に代わり、必ずや青葉の幸せを守る」 頭を下げた皇を見た瞬間、オレたち三人は号泣した。

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