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粗方薄橙色話⑬
そのあと……ようやく泣き止んだオレたちと皇の四人で、中途半端になっていた夕飯を食べながら、今、父上が知っている、一連の事件についての話を聞いた。
杉の一位さんが主犯だったってこと、及び、オレと父上が襲われた事件は、直臣衆と家臣団だけに報告され、極秘情報扱いになったこと。
それに伴って、嘆願書で広く知れ渡った大老様の切腹騒ぎは、大老様がオレを危険に晒したがためにしようとしたっていう、ふわっとした理由以外は、詳しい内容は発表されないってこと。
杉の一位さんは、体調不良が原因で一位職を離れると発表されるということ。
その杉の一位さんの代わりに、塩紅くんに仕えていた桐の一位さんが、杉の一位になりそうだってこと。
はーちゃん襲撃事件は、無差別の通り魔事件として一門に公表され、犯人は護群の取り調べを終えたのち警察に戻し、法律で裁いてもらうようにしたこと。
オレたちを襲った犯人は、杉の一位さんと同じく、衆団会議で処分が決められるだろうこと。……などなどだ。
そんな話を聞いたあと、皇はまた父上の前に膝をついた。
「何っ?!」
「改めて……此度の件、余が雨花を嫁にと決めたがために起こった事件と言える。雨花を守ると誓ったが、雨花を危険に晒すのは、誰より……余かもしれぬ。それでも雨花を……青葉を、余のそばに、置いて良いか?」
父上は、慌てて皇に頭を下げた。
「青葉が若様の奥方様候補に選ばれたあの日……これから先は、ご一族の一員としての自覚を持つよう、青葉と私自身に言い聞かせ送り出しました。恐れながら……確かに曲輪入り後、青葉が危険に晒されたのは、鎧鏡の奥方様候補という肩書きが原因かもしれません。ですが、それを救うのもまた、同じ肩書きかと存じます。青葉が昏睡状態に陥ったあの事故の際、青葉は死んでいたはずでした。それを救ってくださったのは、一門の力ではないですか」
そこで父上は少しためらうように黙ると『何より……私が青葉に、奥方様教育をしていれば、このようなことにはならなかったかと』と、頭を下げた。
「それは違う!鎧鏡を知らぬで育った青葉だからこそ!余を一門の次期当主として少しも崇めず、余を一人の人間として見る青葉だからこそ!……そこにおるだけで、安心出来た。共にありたいと、思うたのだ」
皇……。
父上はグッと唇を噛んで『青葉は……幸せか』と、オレに聞いた。
「……うん」
そう返事をすると、父上は大きくうなずいて『青葉を……どうかお願いいたします』と、皇に深く頭を下げた。
目には見えないけど、感動の嵐が吹き荒れているこの空気感の中、柴牧の母様は『これであっくんは奥方様ね!』と、オレの腕をバンバン叩いてきた。
それを見た父上が『こら!奥方様になんてことを』と、慌てて柴牧の母様を止めた。
っていうか……やめて!その小芝居。オレまだ、正式に奥方様になったわけじゃないから!
そう思っていると、隣の皇が『そうか』と、呟いた。
何が?と思っていると『そうかそうか』と、何やら閃いたような顔をしている。
何なのか聞こうと思ったら、柴牧の母様が『そういえば』と、嘆願書騒動の話をし始めた。
あの嘆願書に署名してくれた家臣さんの中で、オレを奥方様に!というムーブメントが起こっているという。
嘆願書提出によって、オレが地下牢から解放されたと発表されて以来、一門の中でオレは”自分たちがピンチを助けた候補様”として、人気が上がっているという。
何それ?なんでそれで人気が上がるの?
柴牧の母様いわく『売上達成出来たらデビュー出来る企画のアイドルを、CDをわんさか買ってデビューさせてあげようと応援するファン心理みたいなものじゃないかしら?』と、そんな分析をドヤ顔で話してくれたんだけど……ごめん、何言ってるのか、さっぱりわからない。
で。
そんな噂のせいで、オレを地下牢に入れた母様は、”規律のためには候補様にすら容赦のない恐ろしい御台様……どうやら、極悪人の口を割らせるために、普通の人には考えつかないような拷問をするらしい。お医者様だから死ぬギリギリまでのえぐい拷問が得意らしい”なんて、言われてしまってるそうで……。
『どうしよう』と皇を見ると、皇は『全て事実ではないか。御台殿は恐れられて喜ぶようなお方だ。そのような噂なら泣いてお喜びになろう』と、オレの頭をポンッと撫でた。
えええ……それでいいの?
そのあと、小さいころから家長として曲輪に出入りしていた父上と、青紙招集で、大老候補としての教育を小さいころから受けていた大老様は”竹馬の友”だった……なんて話を聞いて、皇と二人で驚いた。
「さて、明日は親戚が集まるから、早朝から準備で忙しくなるわよ。もう寝ましょう」
柴牧の母様がそう言って、オレの肩をポンッと叩いた。
どうやらこれは、その”早朝から忙しい準備”に、久しぶりに帰ってきたオレも強制参加しろという意味らしい。
そのあとすぐ母様に、皇と二人、リビングを追い出された。
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