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粗方薄橙色話⑭
皇もオレも、すでにお風呂は済ませていた。
リビングを出されて、皇をオレの部屋に連れて行くと、オレのベッドが大きくなっていた。
「えっ?!」
これ……はーちゃんの部屋にあったダブルベッドじゃないの?あんなバタバタしてたのに、いつの間に運んでたの?!
……まぁ、これなら二人で、余裕で寝られるだろうけど。
「着替え、ある?」
「いや、身一つで参った」
オレの手を掴んだ皇は『密やかに、早うそなたのもとにと、それしか頭になかった』と、オレをギュッと抱きしめた。
「皇……」
皇の頬に手を伸ばして目を閉じた。
すぐに唇が塞がれて、もう一度強く抱きしめられた。
『柴牧家殿にお許しいただけた。そなたを余に託すと、お約束くださった』と、皇が嬉しそうにオレに笑いかけてくる。
オレはそんな皇を見て、ギュウっと胸が締め付けられた。
グリグリと皇の胸に頭を擦りつけると、皇は『うお!』と、オレを胸に抱えた体勢で、ベッドに仰向けに倒れこんだ。
「余を押し倒すとは」
そう言って皇が笑うから、オレは皇の両手を押さえるように、床ドンならぬベッドドン?をして、皇の唇にキスしようとすると、皇に顔を押さえつけられ、止められた。
「何?!」
皇にキスを止められるとか……。
オレはものすごく怖い顔で、皇を睨んだと思う。
「そのように睨むでない。これ以上、そなたがそのように愛らしいことをするのなら、余はここで、どこまでもそなたを求めるが、良いのか?」
皇に求められたら、オレは……止められない。
下に父上と母様がいるのに、それはさすがに……。
皇の上からどいて、隣に寝転んで手を繋いだ。
「皇に止められるとか……いつもと逆」
そう言って笑うと、皇も笑った。
「そなたに止められる余の気持ちがわかったか?」
皇がオレの鼻をキュッとつまんだ。
「んん!……わかった。……お前も、お前を止めるオレの気持ちがわかった?」
オレが吹き出しながらそう言うと、皇も『わかった』と吹き出して、二人で笑いあったあと、ギュッとハグした。
皇に、オレのパジャマの中でも、大きめの物を貸して、改めて一緒にベッドに入った。
パツパツ気味のパジャマを着た皇と、ちょっとだけキスをして、オレたちは手を繋いで眠った。
翌朝……早朝からガタガタとうるさい音で目が覚めた。時計を見ると、もうすぐ六時になるところだった。
どうやらリビングでは、母様がすでに起きていて、親戚を迎える準備にとりかかったようだ。
そこで皇も目を覚ましてオレにキスをすると『余はこれで曲輪に戻る』と、オレのおでこに、おでこをくっつけた。
「え?」
「親戚の者らが参るのであろう。余がここにおっては気を使わせる。そもそも、そなたの顔を見たら、すぐに帰るつもりでおったに、長居した。思った以上の収穫もあったゆえ、これで曲輪に戻るといたす」
「収穫?」
「ああ。そなたが戻るのは、明日の昼か?」
「うん。お昼には帰るね」
「楽しみにしておれ」
「へ?」
皇は、にやりと口端を上げると、オレの頭をポンッと撫でて、軽くキスをした。
皇は、父上と柴牧の母様に、世話になったと挨拶して、迎えの車で帰って行った。
昼前に集まった親戚の人たちとのドンチャン騒ぎで、その日は過ぎていった。
夜、寝る前に、皇に『明日のお昼前に帰る。おやすみ』と、携帯でメッセージを送ると、すぐに既読がついて『今夜は肌寒い』と、送られてきた。外を見ると、雨が降り始めている。
でも……皇が寒いのは、雨のせいじゃないと思った。好きの言葉はないけど、このメッセージは、オレに会いたいっていう、皇からの……ラブレター……じゃ、ないかな。……多分。
その意味で『オレも』と、返事をした。
「……へへっ」
嫁にって言われたあとも、夢みたい……なんて、ふわふわしてたのが嘘みたいだ。
今は、皇のオレへの気持ちを、こんなに信じてる。
皇からの『明日な』と、いうメッセージに『うん。おやすみ』と返事をして、オレは眠りについた。
1月5日 晴れ
今日の夜七時から、鎧鏡家の新年会が始まります。
父上に、あとでね!と挨拶して、オレは早めに迎えに来てもらったいちいさんと一緒に、曲輪に向けて出発した。
曲輪で、いつものように持ち物検査を受けていると、オレたちの後ろに、いかにも高級そうな車が停まった。
それを見ていちいさんが『お館様です!』と、ザッと膝をついて頭を下げた。
お館様?!と、車のほうを見ると、お館様が『雨花様、どうも』と、手をあげながら車から降りてきた。
挨拶しようと思ったところで、検査所の奥から櫂 様が走って来た。
「ああ!お二人が揃っていらっしゃるとは!どうか若様と大老をお止めください!」
「え?」
ちょっと待って!大老様を止めてって……それ、ついこの前、やったばっかりなんですけど!
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