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…①
「すーと大老がなんだって?」
お館様は、顔をしかめて櫂 様にそう聞いた。
「本丸で対峙なさっていらっしゃいます」
たいじ?
『とにかく若の部屋へ』と、櫂様に促され、オレたちは櫂様の車に乗り込んだ。
「何があったのさ?」
お館様がそう聞くと櫂様は『私も最初からその場に居合わせたわけではないのですが……』と、困った顔をして、二人が揉めている原因と思われることを話してくれた。
皇が、今日開かれる新年会の席で、オレを嫁に決めたことを参加者に発表すると言い出したことが、揉め事の発端だという。
オレを嫁に決めたので、今年の展示会は開かないと、そう発表すると言い出したって。
それを駄目だと言う大老様と、どちらも譲らず、さっきからずっと睨み合ったままだと言うのだ。
母様は、しらつき病院で急患が出たってことで曲輪を離れていて お館様も仕事始めが行われるしらつきグループ会社への訪問なんかで留守だったため、駒様や、本丸の一位職にあたる”一白 ”様、三の丸の一位さんとか、二人を止められそうな人たちを呼んでみたけど、誰にもおさめることが出来ていないらしい。
櫂様は、こうなったらお館様を呼び戻すしかないということで、お館様の居場所を調べたところ、曲輪に向かっていることがわかったので、急いで検査所に迎えに来たということだった。
そこにちょうど、オレもいたっていう……。
そこで櫂様は『あ、雨花様、奥方様のお話、伺いましたよ。おめでとうございます』と、おまけのように付け加えた。
櫂様の話を聞いて、お館様は『ははっ、そりゃ豪華メンバーだな』と笑った。
『それだけのメンツが、ただオロオロしてるだけとは滑稽だろうな。ね?』と、オレに同意を求めてきたんだけど、いや、オレ、その問いかけに『はい』とは言えませんから!
「櫂」
「はい」
「大丈夫。雨花様がいればすぐ収まるよ」
お館様は、オレににっこり笑いかけた。
「うぇっ?!」
オレ?!ちょっ……変なハードル上げないでくださいっ!お館様!
「なんてったって、大老の命は雨花様のものだし、すーは雨花様にメロメロだからね」
「め……めろ……え……」
はぁ……とため息を吐いた櫂様が『表現が古くて雨花様に伝わっていないじゃないですか、殿』と、あきれた顔をした。
いや、オレが何も言えないのはそこじゃなくて!櫂様も、今そんなとこツッコミ入れてる場合じゃないですから!
「よってたかって、こんなところでどうした?ん?新年会の余興の相談か?」
理由は知っているくせに、お館様はそう言って笑いながら、皇の部屋に入っていった。
そんなのんきな空気感じゃないんですけど……。
お館様が入ると、その場にいた皇以外のみんなが、膝をついて頭を下げた。
うわぁ……お館様は、やっぱりお館様なんだなぁ。
「大老、新年会の準備はどうした?そのためにお前を置いて、私だけで挨拶廻りに出向いたはずだが」
「……申しわけございません」
大老様は『新年会の準備よりも大事な用事がございまして』と、さらに深く頭を下げた。
「聞く。言え」
「はい」
大老様が『内密に』と、言うと、一白様が、皇の部屋の壁にあるスイッチを押した。
シュンっという音を上げて、四方に壁が伸びてきて、皇の部屋の中に現れた小さな部屋に、オレたちは囲まれてしまった。
「うおっ!」
オレが驚くと、一白様は『防音設備なんですよ』と、伸びてきた壁をコンコン叩いて、にっこり笑った。
大老様は、ここに集まっているみんなは全員、皇がオレを嫁に選ぶだろうとわかっているので、忌憚なく説明させていただくというような前置きをして、皇に呼ばれてここに来たと、話し始めた。
皇の用件は、新年会でオレを嫁に決めたと発表し、今年の展示会を中止したいというものだったという。
「そのようなこと、許可出来るわけがございません。若が二十歳の誕生日まで、奥方様の決定はしない……そうすることで、真の奥方様候補をお守りするというのは、我ら一門が考え抜いて決めた事。一門で決めたルールを破ることを、許可出来ないと言っているのではないのです!それで雨花様をお守り出来るのかと言っているのです!」
大老様がそう言ったあと、お館様が皇を見て『どうぞ』というようなジェスチャーをした。
「雨花は余の嫁候補だったゆえ、狙われた。余の嫁という肩書が持つ権力を欲し、自身の推す候補を、余の嫁にせんがための企みだった。それもこれも、雨花が、替えの利く候補という立場だからであろう。余の心は決まっておる。雨花は候補などという、替えの利く存在ではなく、替えの利かない余の嫁だと宣言すれば、雨花は実質余の嫁だ。次期当主である余の嫁に、手出ししようなぞと思う家臣がいるものか」
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