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…④

「丁度良い。後ほどと思っておりましたが、今この場で紹介させていただいてよろしいでしょうか?先日決まったばかりの、娘の婿です」 「うっ……」 大声を上げそうになって口を押えた。 娘の婿って……はーちゃんの旦那さん?!いつの間に?!だってさっきまで一緒にいたのに、父上も柴牧の母様も、そんな話、何にもしてなかったじゃん! 待って待って! えっ……はーちゃん、今はフリーって言ってたよね?イングランドの人とはもう別れてて……え?復縁した?あ!インドの人?韓国アイドルの人?え?え?誰だったとしても、一門とは全然関係ない人だよね?それでも、いいのかな。 オレがハラハラしていると、お館様が『入れたらいいよ。柴牧の跡取り様だ。紹介してもらおう』と、にっこりした。 父上は『ありがとうございます』と言って、父上のすぐ後ろの、大広間のふすまをスラリと開けた。 「このたび、我が家に婿入りすることが決まりました、阪寄圭吾と申します。皆さま、以後お見知りおきください」 お辞儀をしていた”はーちゃんのお婿さん”が、父上に紹介されたあと、頭を上げてオレのほうににっこり笑いかけた。 「いっ!つみさんっ?!」 はーちゃんのお婿さんと紹介されたその人は、間違いなくうちの側仕えの、いつみさんで……。 ええええ?!だっていつみさん、さっきまでオレの後ろにいたじゃん!えええええっ?!だって、いつの間にそんなことに……あ……阪寄圭吾?さかよりけいごおおおお?! はーちゃんを助けてくれた、いちいさんがはーちゃんにつけてくれていた護衛さん、の、名前……。 オレがくるっと後ろを振り返ると、いちいさんは、この上なく"してやったり"的な笑顔をオレに向けた。 いちいさーーん! いちいさんには、これまで何度もびっくりさせられてきたけど、今度のこれが、もうホント一番びっくりです! 大広間は、オレの叫びを聞いて、ザワザワとし始めた。はーちゃんのお婿さんと紹介された人はオレの知り合いなのか、みたいな話が聞こえてくる。そういえば、お召し物が雨花様の側仕えたちと同じじゃないか、とか。 そうです!そうなんです!あの人、うちのいつみさんなんですぅ! オレは大声で叫びたいのを、何とか堪えた。 そこでお館様が『ああ、柴牧の後継者様は、雨花様のところの五位だったね。そういえば確か、護群に名を連ねていたな』と、オレが叫びたかったいつみさんの紹介をサラッとしてくれた。 お館様あああ! 「ニュースになったので、知っておられる方も多いと思うが……娘の葉暖が通り魔にあった事件で、娘を助けてくれたのは、ここにいる圭吾でした。その後、葉暖は阪寄家にて保護していただいており、その縁でこのような運びになりました。お館様、圭吾を柴牧の後継者として、お認めいただきたく存じます」 父上は、いつみさんと一緒にお館様に頭を下げた。 はーちゃんがいる安全な場所って、いつみさんの実家だったの?!もー!父上も、柴牧の母様も、いちいさんもいつみさんも、誰も何も言ってくれないんだからっ! っていうか、はーちゃんを庇った阪寄さんがいつみさんってことは、阪寄さんは、めちゃくちゃ無事だったってことじゃん!もー!良かったぁ。 「ああ。これ以上ない良縁だな。直臣衆としての心得、しっかり義父上に聞くといい。柴牧は、直臣衆の誰よりも長く鎧鏡に仕えてくれているからね。よろしく頼んだよ」 「はい!」 父上といつみさんが揃って頭を下げると、北様がその場に立ったままでいた天戸井のお父さんに『問題は解決ですね』と、声を掛けた。 天戸井のお父さんは唇を噛んで『あと一年……あるはずです』と、顔を下げたまま、そう呟くように言った。 大広間はしんと静まって、みんなが天戸井のお父さんに視線を向けた。 「あと一年、あるはずです!若様の二十歳の誕生日までは、あと一年!私ごときが、ご意見申し上げるのはおこがましいと存じますが!あと一年、(あきら)が、若様の奥方様に相応しいと、わかっていただくまでの時間をいただけるはずですのに!」 天戸井のお父さんは、柴牧の跡取りの話がしたかったんじゃないんだ。本当に言いたかったのは、今言ったこと……だと、思った。 「若様が奥方様をお決めになるまで、まだ時間があると思っておりました。晶もそのつもりであと一年、頑張るつもりだったと思います。それを……一年も早く、奥方様をお決めになられたなど……。そのような無体な話、お館様も御台様も、お許しになられるのですか?!」 その時『やめてください!』と、隣の天戸井が、すっと立ち上がった。

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