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…⑤

「ご一族に逆らうような発言は、おやめください、父さん」 「晶……」 大広間はまた、ザワザワと騒がしくなった。さっきから発言していたのが、”楽様”のお父さんだっていうことに、そこで気付いた人もいるようだった。 「僕に鎧鏡一門の素晴らしさを教えてくれたのは、父さんです。一門の一員として、ご一族のため、必死で会社を大きくしたと、僕に話してくれたじゃないですか。父さんがここまで頑張ってきたのは、ご一族のため、一門の繁栄のためだって!それなのに、僕のために、ご一族にたてつくような真似はやめてください!」 天戸井……。 「僕は最初から、若様の奥方様なんていう肩書きは望んでいません。僕には、父さんが崇めるご一族である、若様の隣に並ぶ勇気はありません。でも!父さんが今まで僕に見せてきてくれたように、僕も、僕が持てるだけの能力で、一門の繁栄に貢献させていただきたいと思っています!」 天戸井がそう言い切ると、皇が『楽』と、天戸井を呼んだ。 「はい」 「そちの能力の高さは、近くで見てわかっておる。そちは、何を望む?」 「……許されることなら……若様の家臣団に」 そこで、また大広間がザワッとざわめいた。 「わかった。余のすぐ後ろで、余を支えろ」 「え……」 「楽に余の家臣団を命じる。と、言うても、まだそなただけだが……良いか?」 泣きそうな顔をした天戸井が『はい!』と返事をした。 「天戸井」 続けて皇は、天戸井のお父さんに声を掛けた。 「余は、近くで楽の能力の高さを見てきた。そちの願うところとは違うやもしれぬが……楽には、余の家臣団として力を貸してもらいたい。どうだ?」 天戸井のお父さんは『ありがとうございます!』と、涙声になって、その場に座り込んでしまった。 天戸井が駆け寄って『しばらく失礼致します』と、大広間からお父さんを連れて出て行った。 「他に、何か意見がある者は?今なら聞くよ?」 お館様がそう言うと、南様が『一門の結束をはかるためにも、宴会の数を増やす必要があるかと!』と、手をあげた。 会場は笑いに包まれた。 その時、大老様が『はい!』と、手を挙げた。 「ん?」 「殿への意見ではなく、ここにいる皆に、一つお伝えしたいのです。よろしいでしょうか?」 お館様は『どうぞ』と、手を伸ばした。 「では……若は、雨花様を奥方様にとお決めになった。だが、その決定を門外に知られてはならない。一門の者だけに通達し、門外不出と伝えて欲しい。鎧鏡の姓を賜るまで、雨花様にはサクヤヒメ様からのご加護はない。鎧鏡を狙う輩に、雨花様が狙われないとも限らない。雨花様は、若の唯一無二だ。我ら家臣一同、心を一つにし、若が二十歳の誕生日、雨花様が鎧鏡一族におなりになるその時まで、なんとしても守り抜く!良いな!」 大老様の言葉に、大広間にいる人全員が立ち上がり『おおおおおお!』と、雄たけびを上げると、地鳴りでも起きたかのように、部屋が細かく振動した。 「雨花様……」 いちいさんが、オレの後ろで、そっと涙をぬぐったのを見て、オレも泣きそうになったけど……ぐっとこらえた。 いちいさんに泣かれるのが、もらい泣き率、一番高いんだから! だけど……いちいさんがオレのために流してくれた涙に、悲しい涙は一度もなかった気がする。 そんな風に思ったら、オレはまた泣きそうになって、またぐっと歯をくいしばった。 盛り上がる大広間を見ながら、オレは……鎧鏡一門の一員で、本当に幸せだって……父上の子に生まれて、皇と出会って……本当に幸せだって……叫び出したかった。 サクヤヒメ様……オレをこの世界におろしてくれて、本当に、ありがとうございます。 新年会に参加したのは初めてだけど、隣に座っていたふっきーが、こっそり『今年の盛り上がりは本当に異常。いつ退席出来るかわからないね』と、話しかけてきた。確かに、あの雄たけびから何時間経ったのかわからないけど、あの時のテンションから、さして下がることなく、大広間はザワザワと、そっちこっちで盛り上がっている。 何か……このお酒の匂い……頭が痛い。 あの雄たけびのあと、たくさんの家臣さんたちから祝われて、ようやくひと段落したところだった。 オレは、ちょっとトイレにと、席を立たせてもらうことにした。 廊下に出て大きく深呼吸すると、冬の冷たい澄んだ空気で、体中が浄化される気がした。 ギシっという廊下の軋む音に、ふっと後ろを振り返ると『狙われることはなかろうが、一人で行動致すな』と、いつの間にかそこにいた皇が、オレのおでこをピンッと指で弾いた。 「いたっ!」 「どう致した?」 皇がオレをふわりと抱きしめた。 誰か来るかもしれないのに……。だけど……ちょっとだけなら……いい、かな。 オレも皇にギュッと抱きついた。

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