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…⑦
「前にボク、雨花様に、皇がパンになるって宣言した夢を見せてしまったことがあったじゃないですか?それです」
「え?」
皇がパンになるって宣言、した夢!うんうん!あったあった!
「あれ、雨花様のちょっと先の未来を夢に見せたって、話しましたよね。それと同じです。雨花様がしっかり皇の嫁をしてるとこ、見に行きましょう」
「オレが嫁になるの、早くても一年以上先の話だよ?」
「何年先でも大丈夫です。イメージとしては、タイムマシン……みたいな?ボクの頭の中のつまみを回して、行きたい時間に意識を飛ばすんです。その間、体はここに置き去りにされちゃうから危険なんですけど……ここなら誰も来るわけないので、大丈夫です」
あげはは、あははと笑って『じゃあさっそく見に行きましょう、雨花様』と、オレのおでこに、自分のおでこをくっつけた。
「……眠れ」
あげはがオレの目をじっと見つめてそう言うと、ガクン!と、大きな地震が来たのかと思うような揺れに襲われた。
え?!と、びっくりすると『大丈夫。信じて、雨花様』と、あげはの声が聞こえた。
次の瞬間、ダンっ!と、ちょっと高いところからジャンプして着地したみたいな衝撃を足に受けて、オレは曲輪?のどこかだろう場所に立っていた。
「あ、え?」
「ボクの手、離しちゃ駄目ですよ?」
あげはがオレを見上げて、にっこり笑った。
「着きました。少し先の未来です。……いつくらいだろう?」
いつくらいだろうって……あげはにも、ここがどれくらい先の未来か、はっきりした時間はわからないわけね。
そう思ったら、隣で『はい』と、あげはが返事をした。
「え?」
「魂だけの姿なんで、雨花様が考えてること、ボクに筒抜けです。ボクにもここが、どれくらい先の未来かはっきりはわかりません」
「うえっ?!」
「あ!しぃ!です!雨花様!」
そう言って、人さし指を口の前で立てたあげはは、その指でオレたちの前を指した。
あげはの指の先に視線を送ると、少し先を歩く、二人の背中が見えてきた。
二人とも、明らかに格式高そうな、袴?着物?姿だ。
「もう少し近付いてみましょう」
「え?大丈夫なの?」
「オレたちの姿は、あっちの二人には見えませんから」
そういうあげはに手を引かれて、二人の背中に近付いた。
「オレ、と……皇?」
前を歩く二人は、オレと皇のようだ。少し……いや、結構、雰囲気が変わってる!
「ですね」
前を歩く二人は手を繋いで、たまに視線を合わせながら、特に何を話すでもなく、時折、微笑み合っていて……。
「何、恥ずかしがってるんですか、雨花様」
「ちょっ……感情読まないで。だって何か……あの二人……あんな感じで……恥ずっ!」
そう言うと『え?今も十分、雨花様と皇、あんなんですよ?』と、本当に不思議そうな顔をされた。
「……」
今のオレたちも、周りから見たらあんな感じなの?!恥ずぅっ!
「俯瞰 の目って、大事なんですねぇ」
「ふかんのめ?」
その時、遠くのほうから『殿!殿!どちらですか?!』と、声が聞こえてきた。この声……ふっきーじゃないかな?
その声を聞いて、前の二人が顔を見合わせた。
「探してるよ?”殿”」
そう言ったのは、オレ、の……声?自分の声を、こういうふうに聞いたことないから、何か……え?オレ?みたいな感じだけど、オレ、だよね。
「そなたも参れ」
これは、間違いなく、皇の声だ。
「うん」
目の前の二人は、手を繋いだまま、さっきより足早に歩いて行く。
そこに、だいぶ大人になったふっきーが、家臣さんを大勢引き連れてやって来て『殿!御台様も!何をのんびり散歩なんてなさってるんですか!祝いの宴に遅れます!お急ぎください!』と、怒り始めた。
『次の大老も気苦労が多そうですね』と、隣であげはが笑うから『気を付けます』と、肩をすくめた。
家臣さんたちに囲まれた三人が見えなくなるまで見送って、オレはあげはに『ありがとう』と、お礼を言った。
「御台様、でしたね」
「しっかり出来てはいなかったみたいだけど」
「あれ、御台所になりたてほやほやの雨花様ですよ」
「え?」
「皇が着ていた衣装、あれ、鎧鏡当主任命式の時の衣装でした。ここ、皇が鎧鏡家の当主を継いだ日だったようですね。同時に、雨花様が御台所になった日です。さっきの家臣たちの顔、見ました?みんな、幸せそうでしたね」
「……」
あげはは『あの家臣たちの顔が、雨花様がしっかり皇の嫁になってるって証拠です』と、オレをにっこり見上げた。
「……うん」
「さ、帰りますよ」
あげはが、オレの手をぐっと引っ張ると、オレはまた大きな地震みたいな揺れに襲われて、ぎゅっと目を瞑った。
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