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♯2 即興曲〝桜隠し〟6

「分かった。無理させてごめんね。 桜也、ごはん食べよう。雑炊作ってきたから。食べるよね?」  桜也の脇を持ち、体を持ち上げる。  せっかく桜也とつながれたのに、離れるなんてもったいない。  つながったまま歩く。  抜けないように、桜也の中を傷つけないように、慎重に。  真雪はゆっくりと椅子に座った。その上に桜也を乗せたままで。  桜也は、真雪のひざの上に座っているような恰好だ。  まだ湯気のたつ雑炊。  真雪はれんげを持ち、ふーふーと粗熱を取ると、桜也の口元に持っていく。 「口開けて、食べさせてあげるから」 「…一人で食べれるから。食事の時くらい離れてよ…」  まるで二人ににん羽織ばおりのようなこの状況が嫌なのか、桜也はうんざりした口調で言う。だが、真雪は離れない。 「はい、あーん」  桜也は根負けし、ため息をつくと、口を開けた。  真雪はそっとれんげを、桜也の口に入れる。  桜也は口を閉じ、むぐむぐと咀嚼する。 「おいしい?」  こくんと桜也がうなづく。  真雪はほっと胸をなでおろした。  よかった。桜也が自分の作った料理をおいしいと言ってくれた。  好きな人のために料理するというのが、これほどまでの喜びであったなんて。

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