12 / 164
♯2 即興曲〝桜隠し〟6
「分かった。無理させてごめんね。
桜也、ごはん食べよう。雑炊作ってきたから。食べるよね?」
桜也の脇を持ち、体を持ち上げる。
せっかく桜也とつながれたのに、離れるなんてもったいない。
つながったまま歩く。
抜けないように、桜也の中を傷つけないように、慎重に。
真雪はゆっくりと椅子に座った。その上に桜也を乗せたままで。
桜也は、真雪のひざの上に座っているような恰好だ。
まだ湯気のたつ雑炊。
真雪はれんげを持ち、ふーふーと粗熱を取ると、桜也の口元に持っていく。
「口開けて、食べさせてあげるから」
「…一人で食べれるから。食事の時くらい離れてよ…」
まるで二人ににん羽織ばおりのようなこの状況が嫌なのか、桜也はうんざりした口調で言う。だが、真雪は離れない。
「はい、あーん」
桜也は根負けし、ため息をつくと、口を開けた。
真雪はそっとれんげを、桜也の口に入れる。
桜也は口を閉じ、むぐむぐと咀嚼する。
「おいしい?」
こくんと桜也がうなづく。
真雪はほっと胸をなでおろした。
よかった。桜也が自分の作った料理をおいしいと言ってくれた。
好きな人のために料理するというのが、これほどまでの喜びであったなんて。
ともだちにシェアしよう!