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♯3〝チロシナーゼ欠乏症〟2
どうして自転車に乗れるの、どうしてボールが蹴れるの、と聞かれた時のようだった。出来てあたりまえ。出来ない理由が分からない、という口調だった。
先にピアノを始めていたのは桜也だったはずなのに、気づけば真雪は遥か彼方にいる。
そのことに桜也はショックを受けてしまったのだ。
その後、逃げるように全力を注いだサッカーでも。
「ボールが止まってみえる瞬間ってあるよな」
「進むべき軌道が見えてさ、そこにボールを通しただけ」
スーパープレーを連発する選手は、決まって感覚でものを言う。桜也は、そんな奴らが嫌いだった。
自分はそうはなれないから。
どうがんばっても、自分は真雪のようにはなれなかったから。
「…して。犯して。真雪。今日は後ろからがいい。ぐちゃぐちゃにして…」
後ろからと言ったのは、顔を見られたくないから。
ぐちゃぐちゃにしてほしいのは、自我なんて捨ててしまいたいから。
これ以上、なにも思い出したくない。
ただ雌になって快楽だけを享受したい。
真雪は望み通りにしてくれた。
つながったままベッドに運ばれる。
うつぶせになってベッドに倒れ込むと、真雪は桜也のお尻に乗った。そして垂直に腰を落とし、上から容赦なく突き始める。
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