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♯3〝チロシナーゼ欠乏症〟4

 真雪は生まれつき「チロシナーゼ欠乏症」という病気を抱えている。  「チロシナーゼ欠乏症」とは、歴史の授業で登場する「白化症」のことだ。  黒髪の黄色人種である日本人の両親を持ちながら、銀髪、赤色の瞳、白肌を持って生まれる子どもがいる。いつしかその現象は「白化症」と呼ばれるようになった。  白化症を巡る歴史は複雑だ。  特異な見た目から、神に支える者として崇拝された時代もある。卑弥呼や天草四郎も白化症だったのではないか、という研究結果もあるくらいだ。  だが時代が進み、「士農工商」などの身分制度が確立するにつれ、次第に“鬼の子” “妖怪”と蔑まれ、迫害されるようになった。  明治時代には、療養施設とは名ばかりの不衛生な強制収容所に詰めこまれ、悲惨な最期を迎えた患者たちの記録も残っている。  そんな歴史事情もあって、現在は「白化症」という呼称はつかわれていない。  19世紀に皮膚細胞の研究が進み、原因が究明され、つけられた正式な症名、  ……それが「チロシナーゼ欠乏症」だ。

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