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♯4 練習曲〝憧憬〟1

 真雪にとって、桜也は憧れの存在だった。    グラウンドで、全力でサッカーボールを追いかける桜也。それを、音楽室の遮光カーテンの隙間から見ている自分。  日に焼けた肌。快活な笑顔。  桜也の存在がまぶしかった。憧れていた。  自分もこんな風になりたいと渇望した。  だが、チロシナーゼ欠乏症である真雪は、絶対に桜也のようにはなれない。  自分のいまいましい体質を、どれだけ呪ったか知れない。  真雪を慰めてくれるのは、ピアノだけ。  パリのモンテーニュ音楽大学に留学してまで、真雪はピアノに没頭していた。  なのに、帰国して再会した桜也は…。 「…ま、ゆき?」  過去を追想していた真雪を引き戻したのは、桜也の声。心配そうな、少し不安そうな声。  正常位の体勢で、足をM字に開かされた桜也。性器も乳首も、太股の裏でさえも、なにもかもをさらけ出した無防備で淫乱な姿。  幾度となく、この体を快楽に沈めたのに。  なのに、その瞳は純粋なままだ。    今ここに桜也がいることの幸せを、真雪は改めて噛み締める。

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