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♯4 練習曲〝憧憬〟5
※※※
「おれ、坂下 桜也。よろしくな!
友達になろうぜ。ほら、一緒に帰ろ!」
目を閉じると、桜也との少年時代の思い出が、あざやかによみがえる。
初めて友達になってくれたのは、桜也だった。
異質な真雪に話しかけてくれて、なにかと世話を焼いてくれる桜也。その存在に、どれほど救われたことだろう。
寒照町に引っ越してきたのは、小学四年生の時。
東北地方の最北端にあるこの小さな町は、ヒラメやホタテ、マグロなどの漁獲量が多い漁師町である。と同時に、日照時間が日本一短い場所としても知られている。
両親が真雪の症状を心配し、少しでも過ごしやすい環境を、と引っ越してきたのだ。
寒照村での初めての友達は、桜也。
そして、ピアノにふれるきっかけを作ってくれたのも、桜也だった。
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