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♯4 練習曲〝憧憬〟6
「真雪、運動ができないのなら、ピアノやってみたら?
おれさ、実はピアノ教室に通わせられてんだ。なあ、真雪もピアノ、やってみねーか?」
聞けば、桜也の親はいろんな習い事をさせる主義らしく、桜也はサッカーにそろばんに習字に…と数々の習い事をしていた。こんな辺鄙な町だからこそ、たくさんの経験を積ませてあげたい、という親の思いがあったのかもしれない。
(桜也がピアノを習ってるなんて)
意外な取り合わせに驚きながらも、真雪は考える。室内でできることなら、紫外線の影響をあまり気にせずにすむ。いいかもしれない。
真雪が前向きに検討しているのが伝わったのか、桜也は両手を合わせて懇願する。
「なー、頼むよ真雪! ピアノ教室って女ばっかりでさ、男はおれしかいねーんだよ。
家にピアノなくても、昼休みに音楽室のピアノを借りて練習すりゃいいし。そうだ、うちにある電子ピアノも使っていいからさ!
男のくせにピアノ弾くのかよ、なんてバカにするようなやつがいたら、『ショパンもリストもピカソも男だぜ』って言い返してやりゃあいいんだから」
「…ピカソは画家だよ、桜也」
にしし、と桜也は笑う。
その健康的な笑顔に、真雪は見惚れた。
女子ばかりのピアノ教室に、男友達を入れたいだけなのだと分かっていても。
これほど熱心に誘ってくれるのが、真雪は単純に嬉しかった。
「親に頼んでみる。ピアノ習いたいって。僕、桜也みたいに、ピアノ弾けるようになりたい」
桜也に近づきたくて始めたピアノ。
それが、真雪の進むべき道を決めた。
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