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♯4 練習曲〝憧憬〟10
桜也への情欲に苦悩した真雪は、桜也への未練を断ちきるため、寒照町を離れることにした。
中学卒業後、東京音楽大学附属高校 ピアノ科へ進学。そして、パリのモンテーニュ音楽大学に留学。
ラネック国際音楽コンクール ピアノ部門優勝。
フレデリック国際ピアノコンクール、優秀賞。
ステチュード王妃音楽コンクール、最優秀賞。
在学中に世界三大ピアノ大会を制覇したことで、クラシック界で班目真雪は一躍時の人となった。
だが、どれだけコンクールで優勝しても、コンサートホールを歓声と拍手で満たしても、わだかまる思いは消えない。遠い異国の地にいるのに、劣情は高まるばかりだった。
パリのアパートの一室で、毎夜、桜也の痴態を妄想し、ベッドの中で自分を慰める。そんな自分にほとほと嫌気がさしていた。
24歳を迎えた日に、ついに真雪は決心する。
この思いにケリをつけよう、と。
(日本に帰ろう。そして、桜也にこの気持ちを伝えよう。そうしないと、僕は一生このままだ)
すぐに桜也に連絡をとった。もうさぐ帰国する。そしたら会って話がしたい、と。
桜也は大学を卒業した後、東京の会社に就職したらしく、すぐに会う約束を取りつけることができた。
フラれてあたりまえ。
友達でいられなくなったとしてもしかたがない。
このままいつまでも悶々とし続けるよりは、きちんと玉砕しよう。
そんな気持ちで、真雪は飛行機に乗り、日本に帰国した。
だが、真雪を待ち受けていたのは、思いもよらない事態だった。
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