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♯5 ワルツ〝記念日〟2

 何度か服をくれと訴えたことはあるのだが、「桜也は生まれたままの姿が一番美しいから」なんて言われ、はぐらかされてしまう。だから裸で過ごすしかない。 「今日って何月何日なんだろう…」  今日の日付け、現在時刻はもちろん、季節すら桜也には分からない。  テレビも動画配信サービスと繋がっているだけで、地上波放送は入ってこない。時刻も表示されない。もちろんスマートフォンのような通信機器もない。  真雪の徹底ぶりには舌を巻くばかりだ。もちろん、悪い意味で。  桜也が再びため息をついた、その時。  ピッピッピッ…、ピピッ、と聞き覚えのある電子音が鳴る。番号認証付きのドアが開錠される音だ。    ここに入ってこれるのは、あいつしかいない。 「おかえり、真雪…」  しかたなく声をかけると、真雪は夕食を運びながらとろけるような笑みを見せた。  監禁されてる側が「おかえり」と迎える。なんて滑稽な光景だろう。  監禁当初は、真雪からどんなに話しかけられても徹底的に無視し、一言も話さなかった。  だが、今の桜也には真雪しか会話できる人がいない。ずっと誰とも話さない、というのは意外と精神的に堪こたえる。  だから必要最小限は会話することにした。不可抗力というやつだ。  むろん笑顔なんか見せず、むすっとしたままなのだが、それでも真雪は嬉しそうな顔をする。  幼馴染なのに、真雪が何を考えているのか、桜也にはさっぱり分からない。    真雪の帰還によって、桜也の代わり映えのない日常が始まろうとしていた。 50 /209ページ

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