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♯6 スケルツォ〝転調〟1

 最後の音を弾ききった瞬間、コンサートホールはわれんばかりの拍手に包まれる。斑目真雪、初めての後援会主催公演は、大盛況で幕を閉じようとしていた。  真雪の後援会には、東京都知事・有栖川昭子、参議院議員・田辺喜朗をはじめ、クラシック界の重鎮、弁護士や医師、企業役員、NPO関係者などが名を連ねている。彼らは資金面での協力をしてくれる、大切なクライアントでもある。  耳の肥えた彼らを圧倒し、「ショパンの再来」と言われるほどの演奏力を、真雪は見せつけた。  鳴り止まない拍手に向かって、真雪は優雅にほほえみ、深々と礼をする。  ゆっくりと緞帳どんちょうが降り、客席とステージを遮断していく。  コンサート終了を告げるアナウンスが流れ、真雪は顔をあげた。ようやく終わった。ふう、と息をつく。 「よくやった、班目真雪。大成功だ。 これでまた、後援会からの協賛金が増えるだろう」  真雪に飲み物を手渡す、スーツ姿の男。  マネージャー、神田 冷一(かんだ れいいち)だ。    がっちり固めたオールバックにメガネ。  理屈っぽく融通がきかない性格だが、仕事は迅速で抜けがない。  神田との出会いは、パリのモンテーニュ音楽大学に在学していた頃。  神田は、まだ音大生だった真雪を音楽事務所に所属させ、手厚いサポートを行ってくれたのだ。  後援会にこれほどの著名人が集まっているのも、この敏腕マネージャーのおかげだ。

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