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♯6 スケルツォ〝転調〟2
「真雪、コンサート終わりで疲れてるとこ悪いが、ちょっと来い。お客様がいらっしゃってる」
「お客様?」
神田マネージャーにうながされ、視線を向けると、舞台袖に誰かがいるのが見えた。
通訳を傍らにつけ、優雅にほほえみ、拍手を送る黒人男性。
その顔には見覚えがあった。
最近、よく音楽雑誌で目にする顔だ。
「…もしかして、アレン・トーバーさん、でしょうか」
気品ある笑顔を浮かべて、その黒人男性…アレン・トーバーはうなづいた。
イギリスのロンドンを拠点に持つ、“ロイヤルマレット・フィルハーモニー”。世界屈指の演奏家たちが集まる、格式高いオーケストラ。イギリス王室の式典での演奏も多く「女王陛下のオーケストラ」と呼ばれている。
アレン・トーバーはまだ二十代でありながら、そのロイヤルマレット・フィルハーモニーを率いる指揮者として活躍していた。
神田マネージャーはアレンに英語で挨拶してから、真雪にこう言った。
「真雪。アレンは君の演奏に感銘を受け、ともにヨーロッパで巡行公演しないか、と言っている。どうだ、やってみないか」
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