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♯7 ノクターン〝拒絶〟7

 結局、神田マネージャーに押しきられ、桜也は誓約書にサインをしてしまった。    班目真雪にされたことを絶対に他言しないこと。そして今後一切、班目真雪に近づかないこと。おおまかに言えば、誓約書の内容はその二つだ。  神田は誓約書を受け取ると、満足そうに冷たい笑みを浮かべた。  それから一度部屋から出ていき、格安量販店の袋を下げて戻ってきた。買い物袋の中には、下着、シャツやズボン、厚手のジャンパー、靴などが入っている。 「着替えたらさっさと出ていってくれ。こっちには班目真雪を猛反省させて、仕事に専念するよう説得するっていう大仕事が残ってるんだ」  神田はすでに桜也を眼中にも入れない。  どうすれば班目真雪を更生させられるか、それだけを思案している。  着替えた桜也は、なにも言わずにその部屋を出た。  玄関の引き戸を開け、一歩踏み出したとたん、太陽の光に目を焼かれそうになった。  ただの閑静な住宅地の、平凡な昼下がり。だが、一か月近く室内にいた桜也にとっては、まぶしすぎる世界が広がっていた。  日差しは暖かいが、風は冷たい。  木枯らしが枯れ草を巻き上げていく。  いちょうの葉が黄色く色づき、街に彩りを添えていた。  真雪と再会したのは夏だったのに、もう秋になっていたのか。    あたりがまぶしければまぶしいほど、心は暗く落ち込んでいく。  …これから、どうしたらいいんだろう。  桜也は独り、ふらふらとあてもなく歩き始める。  ここがどこなのか、どこに行けばいいのかも分からぬまま。

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