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♯11 ロンド〝回帰〟20

「桜也、いい演奏だったよ」 「なに言ってんだよ、下手だったろ」  わざとぶっきらぼうに言うと、真雪は大きく首をふった。 「ううん。桜也の一生懸命さが伝わってきて、すごくじーんとしたよ。しかも、僕のためだけに演奏してくれてるんだって思ったら、感激しすぎてもう…」 「泣くなよ、おおげさだな」  桜也は苦笑いしながら、真雪の涙を指でぬぐう。それから目を伏せて、ぽつりと言った。   「中学時代にさ、サッカー部が忙しいからなんて理由をつけて、おれ、ピアノをやめただろ。けど、忙しいからなんて嘘なんだ。 本当は、おまえの演奏力の凄さにビビって、嫉妬して、おれがピアノをやる意味が分からなくなったから辞めたんだ。ずっと真雪がうらやましかった。おれには、胸をはってこれだ、って言えるものがなかったから」  初めて伝える本音。  プライドという硬い殻が、少しずつ溶けていく。 「けどさ、そのことをすごく後悔してる。おれは、おまえみたいに全世界の人に向けて弾くことはできない。けど、おまえのためだけに弾き続けてればよかったんだ、って思ってる」  真雪のおでこに唇を押しあて、桜也は言う。 「おれの体も心も、ピアノの音色も、全部おまえにやる。だから、なにがあっても一緒に生きていこうな」

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