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気になるあいつ-2

気分転換に休憩室まで足を運ぶと、三嶋と出くわした。 彼女も仕事が煮詰まったのか、ソファに座ってブラックコーヒー片手にチョコバーを齧っている。 疲れた時には甘いものだが、女の子ってもっと可愛いチョコとか食べないか? チョコバー丸齧りはあまり見ない人種だ。 「三嶋ぁ」 「主任が居ないからって私に泣きつかないでよ」 鬱陶しいと手をひらひらさせて、三嶋は俺をあしらった。 時任はたぶん、今日は一日経理の方に居るんだろう。 月末だから総務よりもやることが多い。 大変だな、と思う反面、別の意味でこちらも大変だ。 「俺、あいつが何考えてるかわかんねえよ」 自販機から取り出したコーヒーを開けて胃に流し込む。 あれから昼を過ぎて午後四時頃。 新島は特に変わった様子は見られなかった。 逆に意識してしまっていたのは俺の方だ。 例の珍事のせいで、睨むのをやめてくれと告げるのもオジャンになった。 結局俺の周りは何事もなくいつも通りだ。 「新島君、良い子なんだけどなあ。私がチョコあげると嬉しそうに有難うございますってお礼言うし」 「あいつの笑った顔とか俺見たことねえぞ? お前の勘違いじゃねえ?」 「笑顔を勘違いするほど忙殺されてませんから」 三嶋の言う通り、新島は悪いやつではない。 仕事もきちんと出来るし手もかからない。 真面目で、上司を立てる気遣いも出来る。 まだ社会人になって一ヶ月経つか経たないかってところなのに、しっかりしてて何も不満はないのだ。 俺に対しての諸々がなければ。 「やっぱ俺、嫌われてるよなあ」 この間、気のせいだと流した思考がまた溢れ出てきた。 こんなことで悩むのは馬鹿らしいとは思うが、そうは言っても実際に被害を被っているのだから、そんなこと、で片付けるなんてしたくない。 こうなれば、腹をくくるしかない。 今日、仕事が終わったら新島に聞こう。 根は真面目だし、きちんと聞けば答えてくれるはずだ。 もしそれで拒絶されたら目も当てられないが。 「新島、ちょっといいか?」 仕事の終りがけ。 丁度、三嶋がお疲れさまと言い残して部署を出て行ったのを見計らって、新島に声をかけた。 今日はあれから会話らしい話はしていなかったが、様子を見るに新島に気にした素ぶりはなかった。 その事に安堵して、さて、本題に入ろうと口を開きかけた瞬間に、目の前の新島は少し焦ったようにまごついた。 「な、何か不備がありましたか?」 「いいや、お前の仕事ぶりには不満はないよ。俺はそういうの抜きでお前と話したいからこうして来たわけ」 デスクの椅子に座ったままの新島は、俺の言葉を聞くと居住まいを正した。 握りこぶしを膝の上に作って、ぴしりと背筋を正す。 そんなに畏まらなくてもいいのに、とは思ったが新島のこれは今に始まったことでもないから何も言わないでおいた。 「そ、それって。プライベートで話があるって、そういう事ですか?」 「まあ、そうなるな」 変なことを聞くやつだなと内心思っていると、新島はいきなり立ち上がった。 あんまりにも勢いがあり過ぎて座っていた椅子がひっくり返って倒れて、派手な音が室内にこだまする。 そんなことには構いもしないで、立ち上がった新島は自分の鞄を掴んで、俺に頭突きでもかまそうかと言うほどに勢いよく頭を下げてきた。 「すいません、俺は江川さんと話すことは何もないので! 失礼します!」 早口で捲し立てると、俺の横を猛スピードで駆けて行って、部署から出て行ってしまった。 瞬きする余裕も、引き止めることも出来なかった。 本当に突拍子もなく、いきなりだったからだ。 「え?」 頭の中が混乱してて、考えがまとまらない。 なんだ? 一体、今何が起こった? 新島が、何を考えてるのか。 やっぱり俺にはわからないみたいだ。

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