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貴方のことがわからない-1

〈大瀬戸 誠〉 「やっぱ、時任さんってかっこいいですよね」 すぐ側でそんな会話が聞こえてきて、眉間にシワが寄るのがわかった。 俺の真ん前、デスクをくっつけて対面式で業務をこなしている女子二人組を見遣る。 俺と歳が一つ違いの五十嵐沙織(いがらしさおり)と、ベテランの前園京子(まえぞのきょうこ)だ。 俺の所属する経理部は俺以外に男の社員がいない。 女二人に囲まれて仕事しなければならないのは正直、嫌だけど。 でも、今話題に出た彼がここにいるよりは何倍もマシだと思える。 「そんなイイっすか? あれ」 誰ともなく呟いた声に、前の二人から視線が突き刺さる。 こいつ何言ってんだ、と言わんばかりの眼差しに思わず首を竦めた。 「アレ呼ばわりとか失礼じゃない? 目上の人に向かって」 「すいません……」 すかさず五十嵐が突っかかってきた。 彼女はなんというか、俺に対しての当たりが強い。 前園さんはおっとりしてて優しいから良いのだけど、五十嵐だけは好きになれない。 きっと俺のことを弟かなんかだと思ってるんだろう。 姉を持つ友達に、そういう扱いを受けるのだと、昔愚痴られたことを唐突に思い出した。 「でも主任って私とそんな年も違わないのに仕事もできるし気配りもできる。欠点なんて見当たらなさそう」 「そうなんですよねー、仕事できる男の人ってかっこいいですもん」 メロメロな五十嵐に冷めた視線を送りながらパソコンに向き直る。 両親が同性愛者で身近に女性が居なかったから、女に耐性がない。 仕事ならなんとかかんとか出来るが、プライベートでとなるとちょっと無理だ。 だから経理の女二人の中に俺が混じっている、という状況は心底居心地が悪い。 それに加えて仕事の都合上、時折彼が混ざるんだから目も当てられなくなる。 「主任、今日は経理の方が人手いるだろうからって、一日入るみたい」 「マジですか!? ランチ! ランチ誘いましょうよー」 一応業務時間内なのだけど、目の前では女子会よろしく話に花が咲いて止まらない。 これは止めた方が良いのだろうか? でも新人が口を挟んだら生意気だと思われそうだ。 少なくとも五十嵐は目くじらを立てそう。 「――おはよう」 俺が悶々と悩んでいると、話題の人物が経理部のオフィスに入ってきた。 その瞬間、ピタリと無駄話が止まる。 おはようございます、なんて愛想の良い笑顔をすぐに作れるんだから、女ってのは恐ろしい。 「大瀬戸、おはよう」 俺に声をかけると、奏にぃは自分のデスクに向かった。 部署の窓際、一つだけぽつんとあるデスクはいつも空いている。 主任が座ることになっているから、奏にぃが来る時以外は空席になっているのだ。 そして、何の因果か。俺の真正面に位置しているから必然的に視界に入ってくる。 正直、女子のトークに付き合わされる方がまだマシだ。 出来るだけ視界に入れないように、意識しないようにしてパソコンに向き直る。

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