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貴方のことがわからない-2
奏にぃとは10年ほど会っていなかった。
喧嘩別れして、会うのが気まずかったというのもあった。
けれど、彼が高校を卒業して県外の大学に行ってしまったから、そんな機会もなくなってしまって、もうどうでもいいやと思っていた。
昔のことだし、いつまでも気にすることもないと、そう思っていたのに。
四月、偶然に俺が入った会社の部署に、奏にぃがいた。
はじめ、彼を目にした時、なぜだか嬉しかった。
久しぶりに会って、懐かしくて。また昔のように構って欲しくて。
けれど、そう思うのにどうしてもあの時のことを思い出してしまう。
昔、まだ俺がガキで、奏にぃと仲が良かった頃。
俺は奏にぃの事が好きだった。
俺の両親は同性愛者で、俺の前でも普通にキスしたりスキンシップも沢山する。
そんなところで育ったから、俺の中ではそれが普通だった。
もちろん、きちんと女の子も好きだ。かわいいと思うし恋愛対象にもなる。
ゲイではないけれど、そういう同性同士のスキンシップには抵抗もなかったし、両親のそれにも理解はある。
気持ち悪いと否定はしない。俺を育ててくれた両親だ。普通とどこも違わない。
奏にぃに、気持ち悪いと言われるまで俺の中ではそれが普通だった。
ある時、出来心で奏にぃにキスをした。
俺の部屋で勉強を見てくれている時に、ふと見た横顔にキスをしてみたいと思った。
奏にぃ、と呼ぶとこっちに顔が向いて。
どうした? と問われる前に、口を塞いだ。
窓から入ってくる夕焼けが目に染みて眩しかったのを覚えている。
初めてだったから上手くできなくて。
触れるだけのものだったけど、奏にぃは俺を突き放さなかった。
ただ、驚いたように目を見開いて固まったままで、俺は急に恥ずかしくなって少し顔を背けた。
俺の見ていないところで、奏にぃがどんな表情をしていたのかはわからない。
少ししてから、顔を背けたままの俺に向かって奏にぃはこう言ったんだ。
『僕以外と、こういうことはしちゃいけないよ』
それだけしか、奏にぃは言ってくれなかった。
俺の気持ちを確かめることも、何をしてるんだと怒鳴ることもない。
ただ、それだけしか言ってくれなかった。
だから俺は奏にぃが、本当はどう思っていたかは分からなかったんだ。
拒絶しなかったから、俺と同じ気持ちだと勝手にそう思っていた。
けれど、あの時。
俺に言い放った言葉で気がついた。
この人は、俺のことが好きではないのだと。
気持ち悪いと言われて、大事な人にいきなり全てを否定されたみたいで哀しかった。
信頼してたのを裏切られたと思った。
けれどそれよりも、気持ち悪いと言ったその言葉が、俺の両親さえも貶しているようで、何よりそれが許せなかった。
一瞬で、奏にぃの事が嫌いになった。
今まで一緒にいたのに、目の前にいるのが誰だか分からなくなった。
たくさん色んなことを話したのに、あれは全部ウソだったんじゃないかと何も信じられなくなった。
奏にぃの全部が憎くて憎くてたまらなくなった。
奏にぃは、なんであの時、あんな事を言ったんだろう。
その理由が、俺にはいくら考えたって分からないんだ。
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