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貴方のことがわからない-3
「主任、お昼ご飯食べに行かない?」
何回目かのランチのお誘い。今日は前園さんからのアタックだった。
奏にぃはそれを毎回断る。
理由は知らないけど、彼女らのことを嫌っているわけでもないし、むしろ社交的で慕われる人柄だから、誘われて行かないことが最初は意外だった。
どうせ今回も断るんだろうな、と思っていたら俺の予想とは裏腹に、いいよ、と声が聞こえてきて、反射的に顔を上げてしまった。
「どこ行こうか。いつも社食で済ませるからお洒落なお店は知らないんだ」
「じゃあ、オフィス街に良い感じのカフェがあるので、そこでランチしましょうランチ!」
奏にぃの珍しい言動に、我先にと五十嵐が割り込んで行く。
がめついなあ、と思いながら、けれどあれが五十嵐の性格なのだから仕方ない。
俺は絡まれただけで勘弁してくれ、なんだけど奏にぃは華麗にあしらっている。
その様子を横目で見ながら、もう少しで終わりそうな仕事を再開すると急に声が掛かった。
「折角だから大瀬戸も一緒に行かないか?」
ぎょっとして前を見据えると、そこには笑顔の奏にぃがいた。
親切心だかなんだか知らないが、とても迷惑だ。
出来るだけ顔に出さないようにしていると、五十嵐が俺と奏にぃの視線上に立ちはだかって、奏にぃに抗議する。
「別に大瀬戸はよくないですか? 行きたくなさそうな顔してるし」
「かお、はよく分からないけど。大瀬戸入ったばかりだし、折角ランチに行くんだから親睦深めたいなあって思ったんだよ」
こんな事を言われてしまったら断るにも断れない。
一体何を考えてこんな事を言い出すのか、奏にぃの考えが読めないまま、俺は首を縦に振るしかなかった。
俺が一緒にランチをすることになって、五十嵐は終始不満そうだった。
俺も嫌々で付き合ってるんだから勝手に一人で荒れないでほしい。
「沙織ちゃん、そんなむくれないで。折角主任がランチしようって言ってくれたんだから」
「わかってますけど……はあ」
吐き出した溜息には、ありありと不機嫌さが滲んでいる。
前園さんがフォローしてくれてはいるが、いつ俺に飛び火するかわからない。
カフェのテラス席に四人で座ってメニューを開く。
なぜか俺は奏にぃの隣で、自然と顔が引きつってしまってまともに隣を見れない。
愛想笑いなんて、しろと言われても絶対に無理だ。
「色々あるんだなあ、カフェって。僕、こういう所来たことないからびっくりだよ」
「ここ、どれも美味しいって評判なんですよ」
五十嵐はさっきから奏にぃにベッタリだ。
奏にぃが開いたメニューに顔を近づけて、かなりスキンシップが激しい。
けれど奏にぃはそれには何も言わないで、いつもと同じように当たり障りのない会話に収めている。
そこは素直にすごいと思った。
「私はランチプレートかなあ。沙織ちゃんはどうする?」
「私も前園さんと同じでいいです。時任さんは何にしますか?」
「うーん、こう沢山あると迷うなあ……日替わり定食にしようかな」
パラパラとメニューを捲って、奏にぃの視線がこちらに向いた。
それにわざと目を合わせないようにしていると、すぐ側で奏にぃの声が聞こえてくる。
「大瀬戸は何頼む?」
「え、……俺は」
「これなんかどうだ? オムライス。まっ……大瀬戸、好きだったろ」
穏やかな笑顔を向けられて、どうすればいいかわからなくなった。
とにかく、ここにはいたくない。
このまま居たら、奏にぃのことを嫌いになれない。
「俺、まだ仕事残ってるんで。失礼します」
勢いよく立ち上がると、何か言われる前にテラスから立ち去った。
奏にぃは、俺を止めなかった。
なぜだかそれにほっとして、安心する。
これ以上、深く関わり合いになりたくない。
頼むから、俺に優しくしないでくれ。
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