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結論:どうしようか-1

〈新島 大輔〉 毎朝、始業前にオフィスの掃除をするのが俺の日課だ。 時任主任がたまに早く来た時に手伝ってくれるけれど、申し訳ないといつも断っている。 こういう雑用は新人の役目だから、俺がやるのが適当だと丁重に説明すると、時任主任はじゃあ任せようかな、と言ってデスクに戻って作業をする。 とても真面目な人で、俺も見習わなきゃいけないな、と肝に命じているのだが、なかなか上手くいかないのが現状だった。 ひとり掃除しながら思い出すのは昨日の事だ。 江川さんにはとても失礼なことをしてしまった。 俺もあんな事をしたかったわけではない。 業務の話なら余計な事を意識しなくても良いから、何の問題もなく話せる。 けれど、プライベートとなると話は別だ。 江川さんの前となると、どうしても緊張してしまって普段通りに振る舞えない。 時任主任も、三嶋さんも言うほど緊張しない。 俺が意識してしまうのは江川さんだけだ。 江川さんは言葉遣いとか言動が粗野だけど、悪い人ではない。 よく抜ける時任主任に代わって、俺に丁寧に仕事を教えてくれるしわかりやすい。 だったらなんでこんなにも緊張してしまうのか。 一ヶ月前に行われた新人研修で、俺の担当をしてくれたのが江川さんだった。 その時も懇切丁寧に指導してくれたのだが、なんというか。 江川さんの言動の節々が息子を可愛がる父親みたいに思えてならなかった。 母子家庭で育った俺には、長年父親というものが居なかった。 俺が物心ついたあたりで離婚して、母親と俺の二人で生きてきたから。 父親にもっと甘えたかったが、だからといって母さんに再婚してくれなんて言えなかった。 こんな事を言うと江川さんは、まだそんな歳じゃないと怒るだろう。 けれど、俺にとっては父親みたいな存在で、尊敬している先輩だ。 江川さんを前にして緊張してしまうのも、仲良くなりたいだとか、そういう想いが空回りしてしまった結果なんだろう。 もっと彼のことを知りたいと思うのにそれがなかなかうまくいかないなんて、とんだ悪循環だ。 昨日、江川さんに、気になるのか? と聞かれた時だって否定するつもりは無かった。 それなのにあんな態度をとってしまって、挙句帰り際のあれだ。 もうどんな顔をしてあの人と一緒に仕事をしていいか分からない。 自分が仕出かした失態を思い出すたびに、口から漏れるのは溜息ばかり。 とりあえず、江川さんが来たらいの一番で謝ろう。 昨日はすみませんでした、と。 理由を聞かれたら、なんと答えようか。 そこでまた溜息が口から這い出てくる。 何度目かの溜息を吐いた時、履いていたホウキが何かを引っ掛けて遠くに飛ばした。 なんだろうと思いながら拾い上げると、何かの名刺みたいだ。 「ゲイバー・みよし……?」 無意識に読み上げてしまって、慌てて周囲を確認する。 オフィスの掃除をしているのは俺一人だけ。 誰も今の独り言を聞いている者はいない。 ほっと息を吐いて、手の中にある名刺に目を落とす。 ゲイバーって、ゲイの人がやってるバーのことなんだろうか? 字面からそれしか考えられない。 それでもって、これがどこから出てきたかというと。 恐る恐る、先ほど俺がいた地点を見遣ると、そこは江川さんのデスクだった。

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