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「付き合ってください」-2

総務部のオフィスに入ると、そこには新島がいた。 俺が姿を表すと、いの一番に駆けて寄ってくる。 「江川さん」 「おう、おはよう」 「おはようございます」 前のめりで突っ込んできた体にぶつからないように、一歩後ろに下がってかわす。 それに新島は消え入りそうな声で、すいません、と零した。 なんというか、コイツはかなり真面目ちゃんなんだが、力が入りすぎて空回ってる感じがしてならない。 そんなことを冷静に分析していると、目の前の新島はいきなり床に膝をついたと思ったら、 「本当にすいませんでした!」 ゴン、と額を床に打ち付けて深々と頭を下げる。 土下座なんていう予想外の行動に、俺は言葉を失った。 なにをどうしてこうなるんだ? 混乱して状況の整理がつかないまま、新島から視線を外して縋るように周囲を見渡す。 俺の少し前に出勤してきていた三嶋が、目を見開いて固まっている。 窓際のデスクに座ってもう業務に取り掛かっていた時任は、じっと意味ありげに俺を見つめていた。 そんな凝視されてもなにも伝わらないし、現状なにも解決しないんだけど。 「江川さあ、新人イジメは良くないと私は思うんだけども。ねえ、時任君」 「うん、まあ、そうだよね」 他人事だと思って、時任のヤツ、適当なこと言いやがって。 思わず突っかかろうとしたところに、新島の土下座姿が見えて、とりあえずこっちからなんとかしないと。 「わかったから、取り敢えず頭上げろ」 「江川さん、おれ」 「新島、俺は怒ってないから」 「でも、おれ江川さんに謝らないといけない事があって」 今にも泣き出しそうに顔を歪めている新島に、心が痛んでくる。 俺はたぶんなにも悪くないと思うんだが、こんな事されたら良心がチクチクとささくれ立つ。 「昨日のことは水に流すよ。気にしてない」 「ええっと、それもなんですけど。もっといろいろあって」 「いろいろって? 昨日のことで謝ってたんじゃないのか?」 訊ねると、新島は辺りを見回して少し考えた素振りをした後に、言いづらそうに口籠もった。 「ええと、その。なんていうか、……どうしよう」 会話にならない呟きに、こっちがどうしようだ。 とりあえず、立たせようと腕を掴んだところでお呼びがかかった。 「――新島君」 「は、はい」 「今なんだかものすごーくコーヒーが飲みたくなってきてね。買ってきてくれないかな? 僕と三嶋と、あと江川のぶん。ブラックでいいよ」 「わ、わかりました!」 時任の珍しい命令に、新島は飛び上がって出て行った。 本人もテンパってたと思うけど、あまりの元気の良さに言葉が出てこない。 「時任君、今のはもうちょっと自然に出来なかったの?」 「だって江川が困ってたし。新島君、そういうところは気にしてないからいいんじゃない?」 時任ならず三嶋まで、事情を知っているような口ぶりだ。 別にそれは構わないのだけど、なんていうか朝からドッと疲労が溜まったように感じる。 まだ始業前だっていうのに。 「――江川」 突然呼ばれて顔を向けると、時任がオフィスの扉を指して何やらジェスチャーをしている。 俺も一緒に行って来いってか? 確かにさっきなんとかすると言われたが、三嶋も言った通り、もうちょっと上手くやってくれても良くないか? ここで愚痴っても俺の状況は少しも改善されないから、仕方ないと割り切って総務のオフィスを出た。

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