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現状維持でいい-3 *

同性可のラブホテルの一室に二人で入ると、義仁さんはどっかりとベッドに腰掛けた。 それを見遣って、背広を脱いで椅子の背にかけるとネクタイを解く。 服を脱いでいると、その途中で義仁さんがチョイチョイ、と手招きした。 それに従ってベッドに乗り上げて隣まで行くと、ワイシャツのボタンに手がかかる。 「脱がなくていい。俺が脱がせたいし、最初から裸で抱き合うのは萎える」 僕の着ているワイシャツをはだけさせて、胸元が義仁さんの目に晒される。 まじまじと見られるのは、やはり恥ずかしい。 顔を背けたまま明後日の方を見て気を紛らわせていると、舌の湿った感触が胸の先端を掠めて、一瞬息がつまる。 そんな僕の様子を見て楽しんでいるのか。 指先で摘んで、親指の腹で押して。 好きなように弄り倒すのを、息を殺してやっとのことで耐えていると。 今度は唇で食んで、歯を立てる。 さっきと変わって鋭い刺激に、びくりと肩が震えてしまう。 「……っ、義仁さん」 「なに?」 「久しぶりにこういうことをするので、優しくお願いします」 丁重に断りを入れると、義仁さんは驚いたように顔を上げた。 「そうなの? お前、俺の誘いに乗ってきたから慣れてると思ってたんだけど」 「そもそも僕、男好きではないので。そういうのに抵抗がないってだけですよ」 「だからって簡単にこういうことするか? ふつう」 呆れたように言って、義仁さんは頭を掻いた。 こんなカミングアウトをしたら、ここでやめてしまうのだろうか。 それもなんだかもったいないような気がして、やはり言わなければ良かったと後悔した。 ひとり不安に駆られていると、義仁さんは、いきなり僕の頭を乱暴に撫でてきた。 「あの時と変わんねえなお前は。バカのまんまだよ。まあ、そういうところが誠と違ってかわいいんだけどな」 笑って言うものだから、先ほどまでの杞憂はどこかに吹き飛んだ。 こうして撫でられるのは随分と久々だから、なんだか照れ臭い。 口元に笑みを刻んでされるがままにしていると、義仁さんは僕の目を見て言い聞かせるようにこんなことを言う。 「どうせ今回も余計なこと考えて、自分が損する方選んでんだろ」 「まあ、そうなりますね。でも結果的に見て得しているからいいんですよ」 「どこが得してんの? 俺に抱かれてもメリットなんかないだろ?」 正論を言えばそうなるのだろう。 好きでもない男に抱かれて、何が良いのか。 彼が言っているのはそういうことだ。 不思議がっている義仁さんに、納得がいくように言葉を選んで説明する。 「気持ち良いのは僕も好きです。あと、ピロートークに付き合ってくれるでしょう? 義仁さんには相談したいことがあるので、それを含めれば労力に見合った成果だと思いますよ」 「そうやってなんでも割り切れるのは、いっそ清々しいなあ。真似はしたくねえけど」 文句を垂れていた義仁さんが、ガラ空きの胸元に抱きついてきたと思ったら、そのまま押し倒される。 ベッドのスプリングが沈み込んで、見上げると義仁さんの笑みが見えた。 このまま行為に及ぶのだろうけど、ひとつだけ。 これだけは譲れないものがあった。 ヤル気満々のところ悪いけれど、一旦話の腰を折らせてもらおう。

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