18 / 39
現状維持でいい-3 *
同性可のラブホテルの一室に二人で入ると、義仁さんはどっかりとベッドに腰掛けた。
それを見遣って、背広を脱いで椅子の背にかけるとネクタイを解く。
服を脱いでいると、その途中で義仁さんがチョイチョイ、と手招きした。
それに従ってベッドに乗り上げて隣まで行くと、ワイシャツのボタンに手がかかる。
「脱がなくていい。俺が脱がせたいし、最初から裸で抱き合うのは萎える」
僕の着ているワイシャツをはだけさせて、胸元が義仁さんの目に晒される。
まじまじと見られるのは、やはり恥ずかしい。
顔を背けたまま明後日の方を見て気を紛らわせていると、舌の湿った感触が胸の先端を掠めて、一瞬息がつまる。
そんな僕の様子を見て楽しんでいるのか。
指先で摘んで、親指の腹で押して。
好きなように弄り倒すのを、息を殺してやっとのことで耐えていると。
今度は唇で食んで、歯を立てる。
さっきと変わって鋭い刺激に、びくりと肩が震えてしまう。
「……っ、義仁さん」
「なに?」
「久しぶりにこういうことをするので、優しくお願いします」
丁重に断りを入れると、義仁さんは驚いたように顔を上げた。
「そうなの? お前、俺の誘いに乗ってきたから慣れてると思ってたんだけど」
「そもそも僕、男好きではないので。そういうのに抵抗がないってだけですよ」
「だからって簡単にこういうことするか? ふつう」
呆れたように言って、義仁さんは頭を掻いた。
こんなカミングアウトをしたら、ここでやめてしまうのだろうか。
それもなんだかもったいないような気がして、やはり言わなければ良かったと後悔した。
ひとり不安に駆られていると、義仁さんは、いきなり僕の頭を乱暴に撫でてきた。
「あの時と変わんねえなお前は。バカのまんまだよ。まあ、そういうところが誠と違ってかわいいんだけどな」
笑って言うものだから、先ほどまでの杞憂はどこかに吹き飛んだ。
こうして撫でられるのは随分と久々だから、なんだか照れ臭い。
口元に笑みを刻んでされるがままにしていると、義仁さんは僕の目を見て言い聞かせるようにこんなことを言う。
「どうせ今回も余計なこと考えて、自分が損する方選んでんだろ」
「まあ、そうなりますね。でも結果的に見て得しているからいいんですよ」
「どこが得してんの? 俺に抱かれてもメリットなんかないだろ?」
正論を言えばそうなるのだろう。
好きでもない男に抱かれて、何が良いのか。
彼が言っているのはそういうことだ。
不思議がっている義仁さんに、納得がいくように言葉を選んで説明する。
「気持ち良いのは僕も好きです。あと、ピロートークに付き合ってくれるでしょう? 義仁さんには相談したいことがあるので、それを含めれば労力に見合った成果だと思いますよ」
「そうやってなんでも割り切れるのは、いっそ清々しいなあ。真似はしたくねえけど」
文句を垂れていた義仁さんが、ガラ空きの胸元に抱きついてきたと思ったら、そのまま押し倒される。
ベッドのスプリングが沈み込んで、見上げると義仁さんの笑みが見えた。
このまま行為に及ぶのだろうけど、ひとつだけ。
これだけは譲れないものがあった。
ヤル気満々のところ悪いけれど、一旦話の腰を折らせてもらおう。
ともだちにシェアしよう!