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現状維持でいい-4 *

「義仁さん、今回も僕が下でいいんですよね?」 「うん」 「洗浄キットってありますか? ゴムつけてやるかやらないかは貴方の自由だけど、ゴムありでもそれだけはさせてください」 こういうのはきちんとやった方がいい。 衛生面でもそうだし、後処理も楽だ。 「そこの鞄あけて。入ってるから」 「じゃあ僕の上から退いてくださいよ」 「やだよ。せっかく勃ってんのに萎えさせる気か? 舐めてからやってこいよ」 「……わかりました」 ゆっくりと起き上がって、ベルトを外すと義仁さんのモノに手を掛ける。 僕のと違ってすでに勃ち上がっているそれを見て、なんだか複雑な気分になった。 「僕なんかでも勃つんですね」 「だってお前、かわいいもん」 「そういうこと言われる歳でもないんだけどな」 小さくぼやきながら、手に取ったペニスに舌を這わせる。 舌先で先端を舐めて、それから喉奥まで咥えるとえづきそうになった。 あまりこういう経験はないから勝手がわからないが、同じ男だからどこをどうすれば気持ち良いかはわかる。 吸い付きながら口腔すべてで愛撫していると、聞こえてくる息遣いが徐々に荒くなってきているのがわかった。 咥えているから顔は見れないが、悪くはないはずだ。 「っ、奏史、それイイ…、もっとやって」 視界の外で義仁さんの声が聞こえて、感じてくれていることに安堵する。 男同士のセックスに抵抗感はないと言ったが、経験が豊富なわけではない。 実際にしたのは数えるほどしかなくて、圧倒的に経験不足だ。 抱かれるのも抱くのも、義仁さんに比べると下手くそなはずだけど、それでも気持ちよさそうにしてくれるのなら僕も安心できる。 応えるように顔を上下して、口腔で扱く。 先端から溢れてきた先走り汁を唾液と一緒に飲み込んで、ごくりと喉を鳴らしたところで、義仁さんの手が僕の後頭部をわし掴んだ。 「もうムリ、イキそう……口ん中出していいか?」 そんなことを聞くわりに、僕の頭から手を離さないのだから口の中に出す気満々じゃないか。 そう思ったけれど、この状態では喋れないしやめてくれとも言えない。 元々、出されても平気だからどちらでもいいのだけど、なんだか釈然としなかった。 悶々としている僕に構うことなく、口内に吐精された。 なんとか零さないようにペニスから口を離すと、出された精液を喉を鳴らして飲み下す。 美味いものでもないし、舌に残滓が纏わり付いて最悪だけど、飲めとも言わないうちに嚥下した僕に、義仁さんは少し満足げな顔をしているから良しとしよう。 S気質な彼のことだ。 きっと、飲めと強要することは容易に想像できる。 「今回は僕の勝ちですね」 口元を手の甲で拭いながら宣言すると、額を小突かれた。 「さっさとやってこいよ。時間おしてんだから」 2時間コースで部屋を借りているから、あと1時間半。 この後のセックスに最低でも40分と見積もって、僕のお悩み相談が30分。 たった30分では話したいことも話せない。 そうなった場合は、義仁さん持ちで延長してもらおう。 処理を終えてベッドの淵に腰掛けると、後ろから手が伸びてきて仰向けに倒される。 真上から義仁さんが見下ろしていて、整った顔立ちに瞳をすがめた。 手を伸ばして頬に触れると、指先を絡め取られた。 寝転んでいる僕にキスをしようと近づいてくる顔を、空いている手で制すると、義仁さんは少し不満そうな顔をする。 「ダメですよ、それは」 「少しくらい良いだろ」 「光紀さん、悲しみますよ」 「お前が黙ってれば問題ないだろ? それに、俺の浮気性はあいつも容認してるんだよ。身体だけならいいんだとさ」 「でもキスは」 「挨拶みたいなもんだから気にすんな」 いたずらっ子のように笑って、僕の手を除けると口付ける。 啄ばむように唇を噛んで、それから舌が口内に割り入ってきた。 慣れない感覚に戸惑って舌を引くと、逃がさないとでも言うように絡め取られて。 口腔を犯すような執拗な口付けに、次第に息が上がって視界がぼやける。 「んっ……、はあ、」 ここまでと、離された口伝いに唾液が糸を引いていく。 息を整えながら、滲んだ視界を手の甲で拭って鮮明にすると、義仁さんの妖艶な表情が見えた。 「……キス、上手いですね」 「お前よりは経験豊富だし、遊び人だからな俺は」 「悪い大人ってやつですか」 「こんなオジさんになっちゃダメだからな」 愉快そうに笑って、義仁さんは離した唇を再度貪る。 ねっとりと絡みつく舌に、されるがまま。 手足を投げ出して、彼のしたいようにさせる。 キスをしたのも随分と久々だった。 最後にしたのは、10年前。 誠に頭をカチ割られる直前だ。

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