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どうしようもない、独占欲と執着心-2 *

「なあ、奏史」 「……なんですか」 顔を隠した腕の隙間から、義仁さんの表情を盗み見る。 僕と違って余裕そうな顔をしてさっきから組み敷いているのだから、やはり慣れている人は違うな、なんて思っていると、いきなり。 「お前、誠のこと好きなの?」 本当にいきなり、こんなことを聞かれた。 「ひとのこと、抱いてる時に…っ、そういうこと聞きますか、ふつう」 奥を突かれて、途切れ途切れの息をつなげて。 やっと答えた僕の返答に、義仁さんは噛んだ笑いを零した。 「いやね、こんな風に抱かれてる時ってお前、何考えてんだろうなって気になって」 「だからって、…んうっ、いま聞かなくても」 「ヨガってるとこに無遠慮に聞くのがいいんだろ? ヤってる時ってのは頭空っぽだから、恥ずかしいことでもすんなり言えちゃうんだよ」 経験豊富な義仁さんが言うんだから、信憑性がありすぎる。 けれど、流石に後ろを犯しながら人の色恋沙汰を聞くなんて性格が悪すぎだ。 僕だってこんな状態で聞かれても話したくない。 「抜いてくださいよ。そしたら答えます」 「やだよ、お前まだイってないだろ? んなことされたら俺の沽券に関わる」 「ヤリチン野郎の沽券なんてすごくどうでもいい」 「奏史くん、いまものすごく素の部分出てるけど」 「気のせいですよ」 「そんな反抗的なこと言われたら、オジさん本気になっちゃうかなあ」 ニヤリと下品な笑みを浮かべながら、腰の動きはそのままで片手が僕のモノを握り込む。 「ま、待ってください」 「なに?」 「それは流石に反則でしょう」 「お前、面白いこと言うよな、たまに」 止めに入った手を払って、義仁さんは扱き始めた。 上下に擦る手の動きに合わせて、止めていた腰の律動も再開する。 「あっ、んんっ」 ハンパに理性が残っているぶん、えらく恥ずかしい。 本当に今更だけど、なんで僕は抱かれているんだろうか。 誘いに乗ったのは自分だし、こういうことにも乗り気だったけれど、やはり抱かれるのは性に合っていない。 肌のうち付け合う音と、響く水音が脳みそを通過してこだまする。 快楽に脳内の処理が追いつかなくて、なにも考えられなくなる。 脳みそがドロドロに溶けて、頭の中が空っぽになったみたいだ。 たぶん、いま根掘り葉掘り聞かれてしまったら、すんなりと口を割ってしまいそう。 けれど、義仁さんはそんなこと、頭にないのか。 手と腰の動きを止めることなく、噛み付くような口付けで吐き出す言葉を留められる。 酸欠で意識もおぼろげになる中、堪えきれずに吐精した感覚に身体中の力が抜けていく。 汗でぺったりと張り付いた前髪を掻き分けると、僕を見下ろして義仁さんが笑っているのが見えた。 「気持ち良かっただろ? しかも、ほら。結構出てる」 手の中に出された精液を僕の目の前に晒して、義仁さんは楽しそうだ。 対して僕はあまり良い気分とは言えない。 さっきのは確かに気持ち良かったが、それとは別にリードされて掌握されるのには、やはり慣れないものだ。 「義仁さん、生理現象って言葉、知ってます?」 「お前、ほんっとかわいくねえ」 「それ、さっきと言ってること逆ですよ」 嘆息をついて、起き上がろうと腕に力を込める。 けれど、それを阻止するように義仁さんの手が胸に置かれてベッドに戻された。 「なん、」 「これ、舐めて」 僕の精液で汚れた手を顔の真ん前に突き出して、そんなことを言ってくる。 堪らず顔をしかめる。 なにが嬉しくて自分の出したものを舐め取らなくちゃいけないんだ。 けれど、僕を組み敷いている彼は嫌だと拒否しても、そんなことは聞き入れないだろう。 仕方ないな、と自己完結して。 けれど、素直に言いなりになるのは少し癪だから、交換条件といこう。 「舐める代わりに一つだけ、お願い聞いてくれますか?」 「なに?」 「時間延長お願いします。一時間」 手を取って、指の隙間に入り込んだ精液を綺麗に舐め取る。 指を咥えるとゴツゴツとした感触があって、吸い付くように舌を絡ませて唾液を塗れさせる。 ちらりと、合間に義仁さんの表情に目線を合わせると、なんとも言えない顔をしていた。 嫌悪ではなく、その逆で堪らないといった感じなんだろう。 悪くないなら僕も満足だ。 「奏史くん?」 「……なんですか?」 「さっきのってどういう、…いや、なんでもない。今度はどんなプレイがしたい?」 綺麗に舐め取って、掴んでいた手を離すと義仁さんは顔を近づけてきた。 下半身を見ると、また元気に勃ち上がっているのだから、それにげんなりする。 確かこの人、今年で43だったはず。 遊び人だとは言っているが、それにしても僕より一回りも歳上がこんなに盛っていていいんだろうか。 「義仁さん。僕はそういうことをしたいわけではないので。勘違いしないでください」 「ラブホきて、そういうことしないって。じゃあなにすんだよ」 「ピロートーク、付き合ってくれるって約束でしょう。契約不履行にするつもりですか?」 のしかかる重みを払いのけて上半身を起こすと、義仁さんは不満そうだった。 いくらそんな顔をされたからって、これ以上奉仕するつもりはない。 「立派かどうかはわからないけど。僕よりは大人なんですから、約束はきちんと守ってください」 「……わかったよ」 僕の抗議に、渋々という様子だったが従ってくれるようだ。 ほっと息を吐いたところで、おずおずと切り出された提案。 「でもその前に、これなんとかしてくんねえ?」 「自分でやるか、光紀さんに頼んでください」 「なんだよ、ツンツンしやがって」 文句を垂れながらも、義仁さんは無理に迫ろうとはしてこなかった。 一応、息子の友人だからだろう。 それに無理やり手を出して関係に亀裂を入れる馬鹿な真似は、この人はしない。 それもあるのだけど、たぶん一番の要因は光紀さんだ。

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