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どうしようもない、独占欲と執着心-3

義仁さんは、光紀さんに弱い。 たぶん尻に敷かれている。 以前――と言っても10年も前の話だが「ミツのやつ、怒るとおっかねえから怒らせんなよ」と、僕に忠告してきたことがあった。 光紀さんは穏和な人だから滅多に怒らないし、怒ったところを僕は一度も見たことがない。 そんな人を怒らせるなんて、と昔は心底不思議だったけれど今なら納得がいく。 こんな人がパートナーなのだから、光紀さんの心労は計り知れない。 光紀さんは、僕のことを実の息子のように可愛がってくれていた。 10年経った今もそれは変わらないのだろう。 そんなことがあるわけだから、今の義仁さんは無害と見て良いはずだ。 「それで、奏史は俺に何を相談したいわけ?」 なんとか下半身を治めて、トイレから出てきた義仁さんは椅子に腰掛けた。 聞き手間に、ルームサービスで延長を頼む。 ベッドに腰掛けたままに乱れた着衣を整えて、スラックスを履き直してベルトを締めていると、済んだのか。 こちらに向き直ったのを確認して、なんと答えようか少し悩んで。 それから、静かに言葉を選びながら話をする。 「さっき聞きましたよね。誠のこと、好きなのかどうかって」 「ああ、確かこれ前も聞いたことあったよな? ずいぶん昔の話だけど」 「好きかどうかは、わからないんです。キスをされたからって、それだけでは気持ちは揺らがなかった」 「でも、執着はしてるんだと思います」 そうじゃなかったら、誠に対してあんな酷い仕打ちはしなかった。 奏にぃのことが好きだと言われて、気持ち悪いと答えることもなかったし。 それ以前に、初めてキスをされた時に、誠の気持ちを受け止めてあげられたと思う。 「これを好きだって、言っていいんですかね?」 僕の問いかけに義仁さんは、椅子にかけてあった上着のポケットからタバコを取り出して火をつけた。 この人がタバコを吸うのなんて珍しい。 見慣れない言動に驚いていると、そんな僕を一瞥して煙を吐き出した。 「お前、もう昔とは違うんだろ? 」 「お前はもう大人だし、やりたい事は好きに出来る。そもそも、俺、昔お前に言ったよな? その後どうなるかなんて、そんなもの考えなくていいって。んなことに固執してるからめんどくせぇことになるんだよ」 タバコの煙を燻らせながら、義仁さんは捲し立てる。 「好きだったら好きでいいんだよ、そこは。余計な事は考えるな。わかったか?」 真っ直ぐな肯定が、ストンと胸に収まった気がした。 ――好きなら好きでいい。 たぶん、これは当たり前のことなんだろう。 僕が気づかなかっただけで、これが普通のことなんだ。 そういえば、誠は昔からそうだった。 僕に好きだと言って、真っ直ぐに気持ちを伝えてきた。 誠が僕のことを忘れないで、覚えていてくれればそれでいい。 そう思って、ずっとそのままで良いと思っていたのに。 ここに来て、揺らいでくるなんて思っても見なかった。 けれど、現状僕が何をしてもすでに無意味なんだろう。 昔と――あの時と状況は変わってしまった。 僕のことを好きだと言って慕ってくれる誠は、もうどこにも居ない。 自分で仕出かしたことだ。後悔はしていない。 けれど、もう我慢も遠慮も、何もしなくていいのなら。 そろそろ本気で、獲りにいっても良いよね。

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