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ラブロマンスを君と-3
二人して観たラブロマンスは、超絶甘々だった。
暗がりで誰も気にしないことを良い事に、俺は終始顔を顰《しか》めながら観ていたくらいにはゲロ甘。
隣の席にいた新島の反応はよくはわからなかったが、上映が終わって出てくる時に結構面白かったですね、とか言ってたから楽しめたんだろう。
そりゃあ良かった。
「どっかでメシでも食ってくか?」
「いいんですか?!」
映画館の外へ出て、開口一番 訊《たず》ねれば新島は驚いたように声を上げる。
そんなびっくりすることでもないだろ、なんて思ったけどそうじゃない。
こいつの場合、驚愕というよりもただ単純に嬉しいんだろう。
「今日は俺に付き合わせちまったし、お前が良いなら」
「行きます!!」
やった! と、小さくガッツポーズを決めている新島に気付かないふりをして、どこがいいか思案する。
俺は新島の食の好みはよく知らないし、無難なところが一番だろう。
「近場のファミレスでもいいか?」
「どこでもいいです!」
「お前なあ、そうやってなんでもいいって言うのは、言われた方は困るんだからな」
「それじゃあ、ファミレスがいいです」
売り言葉に買い言葉っていうのはこういうことなんだろうな、なんて思いながら、たぶん新島にはそんな意図はない。
こいつは素直なヤツだから、言葉通り真っ直ぐに受け取っただけだ。
なんであれ、不満がないなら俺はそれでいいのだけど。
ファミレスに入店して、席に着きながらメニューを開く。
俺は肉が食いたかったから、ハンバーグにライスのセット。
「新島、お前何食う?」
「ええと、悩むなあ……うーん、江川さんと同じのでもいいですか?」
「ハンバーグだけど」
「それでお願いします」
注文を取った後に、席を立ってドリンクバーでコーヒーを淹れに行った。
自分がやると言って聞かない新島をなんとか宥めてコーヒーを淹れる。
新島の分もと思って、そういえばアイツはコーヒーよりもココアが好きだと言ってたっけか。
一週間前にしたやり取りを思い出してテーブルに戻ると、目の前に置かれたほかほかのココアに、新島が嬉しそうな顔をした。
そんな好きならあの時もカフェオレなんて頼まなくても良かったのに、変なところで気を遣う。
「江川さん、これココアですよね?」
「ん? そうだな。こっちのが良かったか?」
コーヒーカップを持ち上げて訊ねると、ブンブンと首を振った。
そんな振らなくても違うってことはわかってる。
いつもコイツは挙動が大袈裟すぎて見てるぶんには退屈しないから、俺も楽しい。
「いいえ、俺コーヒーよりもココアの方が好きなので」
「知ってる」
「でも、そのこと、江川さんが覚えててくれてたのがすごい嬉しくて」
「わかってる。お前すぐ顔に出るもん」
笑いながら指摘してやると、新島はペタペタと自分の顔を触りだした。
別にそうしたところで何が変わるわけではないのだけど、慌ててる様が面白いからそのままにしておく。
談笑を交わしていると、熱々のプレートに乗せられたハンバーグがテーブルに届けられた。
さて、食べようかとプレートと向かい合った瞬間に、喉奥からくぐもった呻き声が漏れる。
そういや、こういうのには付け合わせってのが引っ付いてくるんだったか。
すっかりその存在を忘れていた。
人参のグラッセをどう処分するべきか。
別に残してもいいんだけど、そうすると下げる時にこの人、人参食べれないんだなんて思われたくない。
実際にその通りなんだが、この歳で子供みたいな食べ物の好き嫌いがあるなんて、バレたくないだろ。
一瞬、息を詰まらせて固まっていると、目の前の新島が助け舟を出してくれた。
「良かったら俺がもらいましょうか?」
「いいの?」
藁にもすがる思いで見つめると、新島は快く頷いた。
それに安堵して、無遠慮にフォークで人参を突き刺して顔の前まで持ってくと、今度は新島の方が固まってしまう。
なんだ? 別に変なことをしているわけでもないはずだ。
この間の昼飯を食べた時と同じ事をしたのだけど。
不思議に思っていると、新島がとても言いづらそうに告げてきた。
「江川さん、その……自分のフォークあるから、わざわざ食べさせてもらわなくてもいい、です」
疑問の答えを本人の口から聞いて、思わず握っていたフォークを落としそうになる。
そりゃそうだ。
あの時は新島がジャンクフードを食べていたからこうして食べさせたけど、今はそんな状況でもない。
少し考えればわかる事なのに、完全に盲点だった。
いい歳したオジサンがこんなマネするなんて、ほんとに勘弁してほしい。
恥ずかしさで死にたくなる。
自分のこともそうだが、とばっちりを食らった新島にも申し訳なくなる。
こんな公共の場で、二十歳超えたってのに食べさせてもらうとか、羞恥プレイにもほどがあるだろ。
指摘されて、咄嗟に手を引っ込めようとした。
けれど、なぜかそれを阻止されてしまう。
俺が手を引く前に、新島がフォークを握っている俺の手ごと掴んで。
それから、大口を開けてぱくりとグラッセを頬張った。
「うまいです」
「……そりゃ、良かったな」
普段通りの新島の振る舞いに、なんと答えていいかわからなくて、そっけない返事しかかけてやれない。
それだけ、今の状況を飲み込めないでいた。
だって、嫌そうな顔もしないで。
むしろ、嬉しそうにそんなことをするんだから。
一週間、付き合ってやると約束して、だいぶコイツのことを知ったつもりでいたけれど。
たまに見せるこういうところは正直、どんなことを考えてやってるのかまったく理解できないでいた。
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