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ラブロマンスを君と-4
結局、さっきのことは水に流す事にした。
今更気にしたところで何も変わらないし、やってしまった事は仕方ない。
人間、諦めも必要な時もある。
黙々とハンバーグを食らっていると、不意に新島がそういえば、と声を上げた。
「俺ずっと気になってたことがあって。聞いても良いですか?」
「なんだよ」
「江川さん、妹さんが居るって言ってたじゃないですか、高校生の。それってつまり……13歳差、ってことですか?」
「まあ、そうなるな」
「すごいですね」
きっと新島は何の気なしに言ったのだろう。裏なんて何もない。
けれど、真っ直ぐなその言葉が今は無性に腹立たしく思えた。
「凄いとこなんてなんもねえよ。面倒なことばっかだ」
棘の多い俺の返答に、対面していた新島の肩が揺れたのがわかった。
それに謝ろうと口を開く前に先を越されてしまう。
「あ、すいませんおれ、別に悪気があって言ったわけでは」
「わかってるよそんなこと。今のは俺が大人気なかっただけだ。お前がそうやって謝ることじゃない」
新島には何も関係ないことなのに、こうやって言葉の端に当たってるんだから格好悪い事この上ない。
コイツのことは、良いヤツだし嫌いではない。
けれど、今までこうしたプライベートの深い部分は殆ど話したこともないし、聞かれもしなかった。
一度だけ、時任には少し話したがそれも仕事に差し支えがあるからだ。
一瞬だけ、言おうか迷って。
それからゆっくりと、言葉を選びながら告げる。
「俺の妹……蛍 って言うんだけど。オヤジと再婚した母親との子供で、要は腹違いの妹ってこと。良くあるだろ、そういう話」
カンッ、とマドラーがカップを叩いてくるくると回る。
それを眺めながら、こんな重い話をするんじゃなかったと後悔していた。
だって、コイツはまだ22で人生の酸いも甘いも何も知らない。
これから楽しいことだって沢山あるのに、こんなショボくれた三十路男の人生の語りを聞いたってなんの役にも立たない。
けれど、なんでか。
とても真剣な表情で俺から目を逸らさないから、どれだけ不恰好でも最後まで聞いて欲しくなった。
「アイツが生まれた時、俺は13で、オヤジと折り合いが取れなかったのか、再婚した母親は蛍のこと産んですぐに出て行った。元々、俺はあの人のことは好きじゃなかったし、家族で居られるよりは良かったと思ってる」
「蛍が6歳の年に、オヤジかぽっくり逝っちまって、それから……10年か? 俺がずっと面倒見てる。親代わりって言っていいのかわかんねえけど、一応そのつもりで接してきたよ。アイツがどう思ってるかは知らねえけど、たぶん、ウザいとか思われてるんだろうな。年頃だし反抗期ってやつだろ」
言葉尻に笑みを含ませて言い終えると、真っ直ぐに突き刺さる視線を感じた。
新島が何を思っているのかはわからないが、この間の事を謝るなら、今だと思った。
「こないだ、呼び出されて帰ったろ。あれも妹絡みだよ。俺も最近、帰りが遅くて帰ってもメシ食って風呂入って寝るだけで、朝もバタバタしてるから話す時間もないし。それが気に食わないんだろ。腹いせで夜中まで外ふらついて、それで補導されたってこと。今までも何度かそういう事があったから、慣れたもんだよ。つっても、こんなこと慣れるような事でもないんだけどな」
「……そう、だったんだ」
聞こえた掠れ声は、まるで老人の皺枯れ声のようだった。
なんでコイツがそんな落ち込む必要があるのか。
同情なんてして欲しくないし、適当に受け流せばいいのに、きっと新島にはそれが出来ないんだろう。
変に素直で、優しいやつだから。
「時任から聞いたよ。お前、昨日俺がいなくて落ち込んでたんだって? 俺もろくに説明もしないで出てったから、悪いことしちまったなって思ってた。今日誘ったのは、映画観にってのもそうだが、それを謝りたかったんだ」
「そんな、俺のことなんていいんです! 江川さんが謝るようなことは何もなくて、その……どうしよう」
一人で慌てだした新島に、状況が上手く掴めなくて困惑する。
どうしてコイツがテンパってるんだ?
俺がなんか変なことでも言ったのか?
ただこの間の事で謝っただけなんだけど。
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