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第3話
(眞島先生がオッケーしてくれた!)
日付が変わり、月が明るく見える深夜。祭は1人、道端でガッツポーズをしていた。
リモート飲み会の誘いは駄目元だった。亘が飲み会の席についたことはない。リモートなら、と賭けてみたが大成功だ。
亘はいつも定時にきっちりと仕事を終わらせ、スマートに帰っていく。真夏でもジャケットを脱がず、いつでも背筋がピンとのびていた。隙がないようでいて、しかしたまにみせる笑顔はとても優しげ。亘のささやかな微笑みに祭はいつもキュンとしてしまう。
祭は亘のことが好きだ。
勿論、恋愛対象として。
サラサラの黒髪も。眼鏡の下のキリッとした目も。意外と厚みのある肩幅と胸板も。ペンだこのある長い指も。全部が愛おしい。見ているとドキドキする。
亘は冷たく思われがちだが、仕事には誰より誠実だ。彼ほど生徒のことを考えている人はいない。今日だって、残業を承知で生徒の質問に答えていた。そのおかげで窓口の混雑も緩和して、亘は本当にすごい。要領がいいというか、やることがクールでスマートでかっこいい。
女子生徒にも人気だ。去年のバレンタインには山のようにチョコレートを貰っていた。なんだかんだ言いながらも受け取ってくれる姿に、女子生徒はクラクラしただろう。祭もした。彼女たちの勢いは強烈で、祭の渡した市販のチョコレートなど霞んでしまった。
それなのに数カ月前のホワイトデー。亘はお返しとして祭にボールペンをくれた。
「消耗品の方がいいかと思って……」
と言って珍しくはにかむ顔の記憶とともに、そのボールペンは引き出しの奥に大切にしまってある。
亘は職場恋愛を嫌っているし、しないだろうとは分かっている。それどころか祭が知らないだけで、実は彼女がいるかもしれない。むしろあれだけ良い男に彼女がいないはずがない。
そもそも祭は男だ。
亘の恋愛対象にはなり得ない。
それでも、どうしても亘が好きだった。言えなくてもいい。たまに話して、笑いかけてくれるだけで。亘がいれば年度末の繁忙期も、塾長の無茶振りも大したことはない。
田舎の明るい星空を背景に、さっき亘とした会話の内容を反芻する。
「鈴谷さんは頑張っていますよ」
思い出すだけで胸が熱くなった。
彼が自分を見てくれていたなんて。
(俺が頑張れるのは、眞島先生がいるから)
「そんなこと言ってくれるのは、眞島先生だけです」
「え?」
ぽろりと甘えるようなことを言ってしまって、慌てて訂正した。亘はこういうことをとても嫌っているからだ。
祭は亘にとって、ただの事務員でしかない。
(でもいつか、名前で呼んでみたいな……)
祭は周囲を見渡して、誰もいないのを確認する。
「……亘さん」
ドキドキしながら、小さく名前を呼んでみる。胸の奥がぎゅっとした。
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