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「つーか俺だってお前みたいな猫被り野郎なんかお断りだっつの。自分で可愛いとか寒っむ。吐くわ」 「聞き捨てならないね。今までリオに告ってきたネコより僕のが断然可愛いんですけど。『腹黒副会長サマ』は見る目がない、目が腐ってる」 「腐ってんのはお前の頭と趣味だろ。お前ほど腹黒じゃねえし」  "王道学園のお高く止まったお坊ちゃん"の筆頭としては、生徒会役員が挙げられることが多い。  そしてリウ曰く、この学園の生徒会メンバー、つまり俺の仕事仲間も、王道の筋書き通りの特徴があるらしい。  『俺様生徒会長』。  『チャラ男会計』。  『無口わんこ書記』。  『双子補佐』。  そして俺が順当に『腹黒副会長』というわけ。  ……まあこれが、自分の性格と合致してる部分がありまして。また、そう呼ばれることに都合がいい部分もありまして。  言葉使いや立ち振舞いなど、意図的に『腹黒副会長』を演じているあたり、俺もリウを猫被りとは呼べない。 「それに、掘る掘られるって話なら僕より断然リオの方が可能性高いでしょ。何せネコランク一位という輝かしい結果を残していらっしゃる」 「……お前だって四位だったろ、《白薔薇》様」 「ご謙遜結構ですよ、《光の君》?」  そもそも俺が副会長職に就いたのも、大変不服なことに、抱きたいランキング(いわゆるネコランク)一位という不名誉な結果が原因にある。  さらには抱かれたいランキングのトップ10にもお邪魔していたとか。  双方のランキングは生徒会会長・副会長の選挙とも言える投票で、自動的に生徒会入りが決定してしまったのが去年の12月のこと。  当時はすげえショックを受けた。  中学では帰宅部だったし華奢な方ではあるけれど、成長期が来てからは特別女に間違われたこともないのに、抱きたいとか。  けれど決まったものはしょうがない。仕事の処理能力とランキングの結果も兼ねて、去年の末に泣く泣く生徒会入りを果たした俺氏。  今ではもう開き直って、このポジションを有効活用してるけど。名誉のためにここで明記するが俺は非童貞処女だ。女の子万ッッ歳。  そんなこんなで生徒会入りが決まったその日から、俺は一般生徒から《(ひかり)の君》だの略称で(こう)様だの、ネーミングセンスを疑う異名で呼ばれ続けている。  それはタチ・ネコ両ランキング上位4名に特別に与えられる『別名』というもので、命名は毎年恒例の習わしらしい。  これこそ目に見える差別のようであまり好きではないが、一般生徒の中ではそれが暗黙のルールで、そのルールこそが王道。  何もかもが王道に準拠、というわけだ。  『王道』の一言でリウを始めとする学園内の腐男子たち(人数は未知)にはどんな学園でどんなシステムかおおよそ伝わるらしい。  桃源郷なんて豪語するだけあって一定の知名度があるようだ。 「ところで、リオ」  いつの間にか幼なじみが何か聞きたそうに熱視線を送ってくる。よせやい虫酸が走る。  とはいえ、自称腐男子の鏡だと仰る幼なじみ──正直な話コイツを手本にする人がいたら世の中犯罪者だらけになんだが──が訊きたいことの見当はついている。 「ねぇ、おうど、」 「残念だが、転入生の話はまだきてねえよ」  だから質問を途中で一刀両断。  話の途中で遮られるって腹立つよな。だからやりましたとも。  話を戻しまして。リウ曰く王道転入生とやらが来る時期は、ちょうど今月。  現在、GW明けの5月初旬。  先月の間ソワソワしてたのはそのせいだ。どうやらまだ希望を捨てていなかったらしい。常識的に考えて、現実世界にそんな人間が現れるなんてまずあり得ないだろうがな。  ちなみに俺のGWは生徒会の仕事に没頭してたらいつの間にか消えてた。ちくせう。  そう、この時の俺は、平穏無事な学園ライフを願う俺の計画が頓挫する未来を、予想だにしていなかった。  まさかリウの願望が果たされ、この学園に嵐を巻き起こす黒マリモが本当にやって来ようとは……。    

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