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来たる、王道 1
『2-S、支倉 理央。至急理事長室まで』
その放送がかかったのは朝のHR前、まだ生徒も疎らな時間。
理事長室への唐突な呼び出しを受け、ノートに落としていた視線を上げる。今のは教頭の声か。
"君臨すれども統治せず"スタンスの学園理事は多忙な人で、日頃不在なことが多い。
だからこうして用事があるときは遅くとも前日にはアポを取ってくれるし時間の指定もしてくれるのに、今日はどうしたんだろう。
珍しいな。
思えばそこから、イレギュラーは始まっていたのだろう。
疑問に思いながらも面には出さぬよう外面用の表情をキープしたまま、二年Sクラスの教室をあとにする。
ちなみにSクラスというのは、成績や家柄、容姿などで評価が高い生徒が割り振られるクラスにあたる。俺はまあ、生徒会役員なので、自動的にここだ。
正直、家柄や見た目でクラスに順列つけるってどうかと思う。しかしそれが王道学園のセオリーらしいです。腐男子の妄想ばかりに都合がいい、こんなせかいはまちがっている。
理事長室がある職員棟にようやく辿り着き、無人のエレベーターに乗り込んで目指すは最上階の七階。
身嗜みを整えている間に上へ上へと上昇し、チン、という軽い合図と共に、見るからに牢固な扉が音もなく開いた。
ワンフロアを占める理事長室前の(扉まで赤絨毯がひかれた)廊下を歩き、数世紀前の欧州の城にでも登場しそうな装飾が施された取っ手の横に設置されたこれまたクラシカルなドアノッカーで来訪を伝える。
ここに来るたび、金の無駄なまでの乱用に天を仰ぎたくなる。
内心で小言を募らせながらも、扉のロックが解除される音を聞き、美形秘書さんに招き入れられるまま部屋へと入室。
広い部屋、壁一面にはめ込まれた強化ガラス。
それを背景に、立派な机に優雅に腰を掛ける男性。逆光となり表情は窺えないが、それがまた彼の持つ神秘性を底上げる。纏う気配に、どことなく機嫌の良さを感じ取った。
そして、挨拶もそこそこに理事長から告げられた言葉は、こうだ。
「本日より、俺の甥がこの学園の生徒として通うことになってね。ここまでの道案内を是非君に頼みたいんだ」
なん………………ですと……?
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