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* 『一体僕が、どれほどこの日を待ち望んでいたのだろうか。人生でたった一度の高校生活を棒に振ってまで来たこの学園で、一年間の無収穫! 親愛なる幼なじみには夢だ幻想だと貶される毎日! そしてようやく訪れた、腐男子による、腐男子のための王道。その改革となる転入生に一番最初に接触出来る副会長を幼なじみに持てたなんて、リオ、僕いま本当に幸せ……!』 「切る」 『今切ったらリオと会長の腐・合成写真親衛隊に高値で売るけど、それでもいいなら切ってくれて構わないよ?』 「チッ……何で、転入生来ること知ってんだよ……」 『勘だよ勘。僕が一体何年腐男子やってると思ってるの?』 「一年と半年」 『言うほど長くないと思ったでしょ? たった今僕も思ったよ』 「どうでもいいわ」  理事長室から出て、受け取った資料を片手にひとまずほかの生徒会メンバー全員に一報を入れ、「至急生徒会室に集合」との文面を送った直後、着信を知らせる携帯。  もしもし、なんて言う暇もなく始まった大演説からすると、俺がただ理事長室に呼び出されただけで転入生が来ると察知したようだ。  もう一限目はとっくに始まっているはずなのにこいつは一体何をやっているんだろう。  リウ曰く修羅場を潜ってきた腐男子には腐に関する電波的なものが働くようになるらしい。お前はばかなの??? 『リオ、一生のお願いだからよく聞いて。副会長は王道クンにとって最初にエンカウントする学園生であり、生徒会が王道クンに興味を持つきっかけとしてキーになる重要な役割なんだって、肝に命じておいてほしい。 あ、リオは無駄に作り笑いが上手いんだから、そこはハードルを下げて王道くんに対応してね。ちゃあんと名前も含めて自己紹介するんだよ?? じゃあ、王道総受けルートを目指してしっかり働いてくれたまえ、副会長さま?』  何故こいつがこんなにテンションハイなのか。曰く、王道転入生の転入初日とは、生徒会役員との『イベント』が付き物らしい。  例にあげるのも億劫だが、『副会長が転入生を案内する』のも王道イベントのひとつにしてスタート地点なんだとか。  そして王道を気に入った副会長を見て、ほかの生徒会役員も転入生に興味を示す。あとは芋蔓式で、着々と王道総受けルートへの道が拓けていくと。  なんかもう、一種の攻略ゲームみたいだ。  腐男子の希望通りに動くのは癪だが……まあ、俺個人としては、その転入生が周りの目をすべて引きつけてくれるなら、それはそれで別にいいんじゃね? という気持ちもありはする。  というのも、立場上、それはもう千差万別の注目を集めやすいのが生徒会役員。  基本的には親衛隊のように肯定的に支持してくれる生徒が多いが、中には怨恨や過度な期待など、良いものだけとは限らない。  だからその転入生が総受けにでもなって、全校生徒や腐男子の目が転入生に向かってくれるなら、俺としても注目されるストレスが減ってありがたいなと。転入生がノーマルだった場合は、ちょっと申し訳ないけど。  どちらにせよ、相手はあの理事長の甥、友好的な関係を築いていた方が無難だろう。  だが、問題が一点。 「そもそも、転入生がお前の言う『王道主人公』とは限らねえだろ」 『まあそればっかりは、見てからのお楽しみとしか言えないよねえ……』  根本的に、その転入生が本当に『王道』かどうか。  理事長の甥、というスペックは王道通りらしい。ただし、うちの理事長は聡明かつ思慮深く、物腰の柔らかい麗人だ。  自分自身の甥に確実に苛められそうなクソダサ変装させて入学させるとは考え難い。学園の生徒が他人の顔面偏差値で格付けすることを、この学園の理事が知らないはずもないのだから。  それ以前にあの人が溺愛とか……まったく想像出来ない。  

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