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「…………よし」
風で乱れた前髪を整え、生徒会室の前で軽く気合いを入れ直す。
理事長室の華美でキラキラした扉とはまた違った、高級感漂う両開きの厳重そうな扉。
IDカード代わりの電子生徒手帳をセキュリティシステムに翳し、顔認証や指紋、暗証番号などをクリアすると、一見重そうな扉が自動的に音もなく開く。
無人の応接室を抜け、仕事場へと直行。
ここから俺は完全に、生徒会副会長へと変貌する。
「あ、リオちゃんおかえりー。理事長から呼び出しくらったんだって? いかがわしいことされなかったー?」
「馬鹿なこと言ってる暇があったら手を動かしてください、マツリ」
「「りっちゃーん! お疲れ様ー!!」」
「ありがとうございます。ソラ、ウミ」
「りお……コーヒ、飲む……?」
「そのお気遣いだけで十分ですよ、タツキ。……で、ここにいないバ会長はまたサボリですか」
「会長なら上のプライベートルームだよー。あ、でも今は取り込み中かも」
「ああ……なるほど」
この変わり身の早さはもはや役者だろう。
自分の演技力に驚いていた時期が私にもありました。
出くわしたのは4人の生徒会仲間。
まず、金混じりの茶髪が特徴のチャラ男会計、綾瀬茉李 。
とにかくチャラい、ゆるい。そしてこの学園の非常識筆頭、率直に言うとバイだ。某ランキングの抱かれたい部門で4位を獲得し、以後、《黒薔薇》様と呼ばれるクラスメート兼仕事仲間。
次、水色の髪の双子補佐、橘蒼空 ・碧海 の橘兄弟。
可愛らしい童顔を持つ一卵性の双子。特徴と言えば日に日に髪型が変わることくらい。こちらの二人もクラスメート兼仕事仲間。
そして茶髪無口わんこ書記、横峰辰稀 。
大柄で八重歯が特徴的な先輩。かわいい。ただただかわいい。生徒会唯一の癒やしのわんこです。
全員が親衛隊持ちの美形揃いで、双子もタツキも『別名持ち』とまではいかないけど、ランキング上位の人気者。
こんな濃いメンツの中で日々を過ごしていればそりゃもう毎日疲れますわ。
そんな思考が伝わったかは定かではないが、濃いメンツ其の一・マツリと目が合い、ぱちんとイケメソウィンクが飛んできた。チャラ男さんチーーッス。
「なーに、リオちゃん。そんなに見詰められたらオレでも照れちゃうんだけど。………それともオレ、誘われちゃってる?」
「………」
甘いテノールのR指定ボイスがそう囁く。
ドキッと来たかって? ぞわっと来ましたけど何か??
俺より身長高いヤローはわんこ以外基本的に気に入りませんけど何か???
男が男に対して言うことじゃねえと思うが、こんなやり取りももはや日常茶飯事。何せ相手は遊び人。ちょっとでも相手に興味を抱くとあっさりベッドインして後腐れなく一夜を越すような男だ。
まあ、仕事仲間としては重宝してるんだがな。サボり魔2だけど最終的には仕事間に合わせてくれるし。サボり魔2だけど。
こういう場合の対処法としては、過剰に反応しても逆効果。かといって放置も良くない。
「まさか緊張してる? 可愛いね。大丈夫、オレ上手いし。優しくしてあげるよ?」
「……マツリ」
「んー? なーに」
男相手に緊張。笑止。片腹痛いわ。
ぜひとも親衛隊にやれ。そして約一名の腐男子に嬉々として観察されろ下さい。
「仕事、まだ、残っているでしょう?」
「あ、はーい」
働かないなら出てけ、との念を込めてそう言えばアッサリ身を引いたマツリの横を通り過ぎ、実に見てて和むわんこと双子のお戯れを横目に見、三階に繋がる螺旋階段へ足をかける。「巻き込まれないよーにねー」との忠告には片手をあげて応えておく。
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