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目指すは役員の個室が並ぶ三階の奥、とある男専用のプライベートルーム。
取り込み中?
知るか。仕事優先しろあのバカ。
ノックもせずに開けたそこに広がっていたのは、それはそれはファンタズィックな光景。
「アっ、あん、ぁ…っ! 《闇豹》様ぁ!」
「、あ……? リオじゃねぇか。どうした急に入ってきて。混ざりに来たか?」
「ふぇっ? ふ、副かいちょぉ……っ?」
「何ならお前がコイツに挿れろよ。お前のことは俺が気持ちよくしてやるから」
「やだっ、僕は《闇豹》様だけに抱かれたいのにぃっ」
「--あなた達は、ここを、何処だと思って、そのような行為に及んでいるのか、詳しく、お聞かせ願いたいのですが」
笑顔を貼り付け、一言一句に圧を籠める。
こんの非常識万年発情期野郎は一体何をやっている。
広々としたプライベートルーム、ででーんと鎮座した仮眠用の(あくまで仮眠用)キングサイズのベッドで何事かを営んでいる男女………ではなく♂と♂。
女と見紛う小柄な生徒に馬乗りになっていた男が、気が削がれたとでもいいたげな顔でこちらに向き直る。
「……萎えた。何の用だ? こちとら取り込み中だったんだが」
取り込み中もクソもあるかクソが。
この野郎、人がやりたくもない仕事を任されたってときに、何楽しんでやがる。既読一人分ついてなかったのは十中八九この男だ。クソ腹立つ。
男は怠そうにベッドから身を起こした。ネクタイと第1ボタンを外した程度で着衣はほとんど乱れてないから、どうやら本番までは及んでなかった模様。
セーフ………でもねえな。セウト。
野郎と野郎がベッドでずっこんばっこんしてるシーンなんざ見ようものなら引きこもりと化す自信が俺にはあるね。
さっきまで甘ったるい声で喘がされていた生徒が、行為の最中に入ってきた俺を睥睨する。そうして「副会長様は放っておいてはやく続きしよ??」と男のブラウスをつまんであざとく誘っていた。
それを「馴れ馴れしい」のひとことでバッサリ振り払ったこの男はいつか痴情のもつれ云々で背後から刺されると思う。
男の冷淡な対応に震えあがったその生徒は何故か俺を恨みがましく睨みつけ、服を盛大にはだけさせたまま部屋から去っていく。
あーあ、あんな「情事中だったのに追い出されました☆」感を出したまま飛び出すことないだろうに。ここから生徒会室を出るには必ず仕事場を通る。置いてきた4人と鉢合わせる未来は避けられない。
あの子はこの男の親衛隊だろうか。けっこう可愛い顔してたのに、この男に夢中になったばかりに。勿体ないことこの上ない。
「はぁ……あなたって人は……」
「そんなに拗ねんなよ。お前、普段は生意気なくせに素直になりゃあけっこう可愛いとこも、」
「……会長」
「冗談。真に受けんな」
俺がいつ拗ねたよ。俺の性格とか性格とか性格とか考えてからものを言えし。
けろっとした態度で制服を整え出した男の何食わぬ顔を見下ろし、自然と溜め息が零れる。
しかし俺の用事はまた別件だ。嫌々ながら向き直った。
「お話があるんですけど」
「他人のセックス途中乱入して中断させておいて許されるだけの重要事項なんだろうな? 事と場合によっちゃあ部屋から出さねえぞ」
「あなたってひとは本当に……。いいですかバ会長、理事長から直接仰せつかった早急の用件だというのにあなたがこんなところで戯《あそ》んでいたせいで時間をロスしてしまったでしょう。あと、生徒会室での性行為禁止だって、何度も言ってますよね」
「お前、今日は輪をかけて機嫌悪くねぇ?」
「そうやってまた論点をずらして、」
「はいはい分かった、他んとこでヤりゃいいんだろ」
会長がヒラヒラ両手を上げて降参を示す。
場所変えりゃいいってもんじゃねえだろうこの屁理屈野郎め。さすがチャラ男に張る絶倫野郎、まだまだ性欲有り余っていらっしゃる。
いっそ耐えきれず発狂して問題起こして停学くらってくれないだろうか。そうしたらきっと俺の平穏が三割くらい帰ってくるような気がする。
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