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*  天高く聳えるのは、黒く塗装された鉄状の門。  およそ十数メートルはあろうかという立派なそれが、我が校の顔たる校門だ。  門前には長々とした黒石の階段。  セキュリティ万全、威風堂々、部外者は固くお断り。世間と学園とを隔絶する象徴。  少し早く着いてしまったようだが、まあ遅れるよりはいいだろう。壁に背をついて一息吐き、脳内でシミュレーションを開始する。  ええと、第一声はまず挨拶だな。それから軽く自己紹介して、あとは……。  つうか、どんな相手なんだろう。  理事長と繋がりがあるということはそれなりに地位がある出自っぽいし、庶民は見下す系の気難しい金持ちタイプだったとしたら非常に対応に困る。ひょっとするとこれ、人選ミスなんじゃ……?  早くも不安が渦巻いてきた。  参考までにリウから聞いた王道展開でいくと、転入生の登場の仕方のテンプレはオリンピック選手並みのハイジャンプで門を飛び超え 「……うわっ!? 退いてくれ!!」 「へ、」  自分の人並み以上の反射神経に今ほど感謝したことがあっただろうか。突如頭上から聞こえた指示に即、反射で脇に避けた俺は今音速を超えたと自負している。  上から声がした。つまり。  いや待て待て、人間がどうやってこの門をよじ登れるというんだ。門に直接触れたらセキュリティが反応するし、近くに木が生えてるワケではないから乗り移ることも出来ない。  まさか……人間じゃ、ない……? 「はあ、入れた……。ええっと……大丈夫…ですか?」 「え、……、……!」  うわ……うわあー………。  ガチのヲタルック来ちゃったー……。  そこにいたのは、顔半分を覆う長すぎるごわごわとした前髪に、玩具みたいな瓶底眼鏡をかけた生徒。  王道転入生と呼ばれる特徴そのままを引っ提げた存在が、俺の目の前に立っていた。  ────いやいやいや ち ょ っ と 待 て。  え、まじで? その格好マジかよ。マジかよ!  想像以上にキッッッッツイんだがよくそれで来ようと思ったな!  人は見かけじゃないけれどさすがにお前のその美的センスは最悪だと思うぞ!!  『ドッキリ大成功』的なプラカードがどこかにないか素早く周囲を確認する。まだリウの差し金って方が腑に落ちる。  種明かしなら今のうちだぞ。今なら怒らないから早く出てこい。出て来てください。  ……出てこない。  どうしよう、わりと本気で動揺してる。  リウは俺にこれを口説けと申すのか。王道ルートあるあるの「嘘の笑顔を見抜いてくれた転入生を気に入る副会長」という展開をご所望なのか。  腐男子の望む展開を受け入れて健やかな学園ライフを目指すか、こんなよく分からんヲタルックとの接触を回避してプライドを守るか…………く、苦渋の選択…。  まあしかし、悩んだところで答えは決まっている。  俺の中で常に災厄のシンボルに位置しているのはあの幼なじみ。要らぬ波風は立てない方が無難。ひとまず腐男子の思惑に乗ってやろう。  平常心を心がけろ。笑顔、笑顔笑顔笑顔……。 「……理事長から、話は窺っております。あなたが本日よりこの学園に転入する王ど……、佐久間涙(さくまーるい)さんですね?」 「そ、あ、はい。そうです。あなた、は?」 「私は本学で生徒会副会長を務めている、二年の支倉リオと申します」  警戒されないようにと、友好的な態度を心がける。  そんな俺を(鬘とメガネで見えないけどおそらく)じっと見上げる転入生。幾ばくか間があった後、気になる呼称をぽつりと口にした。 「……《コウ》…?」  来た。暴走族ネタ。  これも、リウが言ってたとおり。  ちなみに《コウ》とは、俺の別称である。なんつーか、通り名? 的な。  これでも俺は以前、とあるチームに所属していた。過去形な。《光の君》からとって、チームの連中からは(こう)と呼ばれていた時期もあった。といっても短期間だが。  会長率いるチームで、いろいろあって勧誘されて、あれよあれよと幹部という地位までのぼりつめてっと。好奇心旺盛な高校生ですからね。経験値にはなりましたよ。冒険でしたよ未知でしたよ不良の世界。  しかしこれは終わった話だ。もう、必要以上に関わるつもりもない。  

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