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 さて着きましたは2-S。我がクラス。  時間帯としては3限目の経済学の途中。教室の後方のドアから入れば一気に騒がしくなる教室内。  教卓に立つ教師に軽く会釈して遅れたことを詫び、窓際から二列目、一番後ろの自席へと着席すれば、隣の生徒から俺へと静かな声が掛かる。 「よう、腹黒」 「……やりたくもない仕事を頑張った俺への第一声がそれってどうなの」  窓際一番後ろという特等席にて、気怠げに頬杖をつき、俺を横目に見る黒髪の男へ、まわりに聞こえないよう小声で言い返す。  名を、壱河紘野(いちかわ-ひろの)。  無愛想で淡白で現役の不良の、俺の友人兼クラスメートである。  そのサラッサラであろう黒髪と同色の切れ長の眼、端正な顔立ちの美形さんだ。厳密には黒、というより漆黒、の表現が正しい。  そして羨ましいことに長身。爆発しろ。  美形率が高いのはまだ王道学園だからというアホみたいな理由で納得させられたけど、長身率も高いとは一体何事だ。爆発しろ。  俺も平均よりは高いほうに分類されるはずなのに、見下ろされてる感が毎回俺の心を傷付ける。爆発しろ。  さらに言えば、コイツには色々と、バレてる。 「どうだった、その転入生とやらは」 「あー……リウが言った通り、王道みたいなやつだったよ……」 「へえ」  自分から聞いてきたくせに反応が薄いのはまったくの無関心である証拠。心の底からどうでもよさそうだ。  まあでも、つどつどこいつにリウのことを愚痴るついでに話した転入生ネタを覚えているあたり、少しは話を聞いてくれる気があるらしい。  紘野は俺の素の状態を知っている。リウの黒さ、腐男子であることも知っている。しかも俺の場合バラしたのではなく、バレたの方。  自分の演技に自信が持てなくなる絶望を俺にもたらした男だけど、当の本人は特に態度も変わることなく俺に接してくれる。うん、まあイイ奴。  あ、リウの方はどうやってバレたのかって? もちろん俺が勝手にバラしたさ(道連れ思考)。  俺が受けた王道の第一印象と、これから起こるであろうイベントという名の不可解な集団行為に対する愚痴をルーズリーフに書き殴って押し付けてみたものの、紘野は「ふーん」とか「だから何だよ」とか友達がいがない反応ばかり。  さすが、抱かれたいランキング三位という成績を残して「あっそ」の一言で片付けるドライモンスターだ。さみしい。  まあサボり魔のこいつが大人しく席について授業を受けているだけで稀だし、絡むのはほどほどにしておこう。 「すみません。諸事情により遅れちゃいました」  真面目にお勉強スイッチに切り替えたちょうどそのとき、聴覚で認識するだけでは可愛らしい声がやや遠くから。  

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