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予想通り、申し訳なさそうな顔を装って教室に入ってきたのは幼なじみのリウ。
眉尻を下げ低姿勢になるその姿にムッツリ教師や一部の野郎共は胸を射抜かれちゃってますけど、俺は騙されねえぞ。
あれはおそらく「カメラ回収したあと映像をジックリ見て萌えてきました。」って顔だ。校門付近の警備体勢は一体どうなってやがる。
リウの取り巻く空気がやけにギラギラしてる。俺と王道転入生との接触は、どうやらヤツのお気に召したらしい。
猫被ってんじゃねーよ、と、周りにバレない程度にヤツを睨めば、それに気付いたリウが意味深に微笑み、クラスメイトの一部が頬を赤らめる。
さすが《白薔薇》サマ。抱きたいランキング4位を獲得しただけはある。
俺にはしっかりと意味が汲み取れたけどな。
『───ゴチソウサマでした。』
クソが、人の災難を利用して自分は思う存分趣味に走りやがって。あのクソ幼なじみマジで一度酷い目に遭わないかな。
そんなことを考えていれば、ぱこっと頭上に軽い衝撃。
「いった。何」
「顔。取り繕えてねえぞ」
「あのクソなじみのことを考えていればこんな顔にもなるわ。なあ、どうすればリウのあの性根こじれまくった性格は治ると思う? やっぱりアイツ自身が一度受けを体感するべきだと思うだろ? ……頼む、紘野。一回でいいからリウのこと抱いてくれねえか」
「俺をお前らの茶番にいちいち巻き込むな」
「はっ、お前はもう不良属性を持ってる時点でリウの妄想からは逃げられない立場にあるんだよ」
「お前のその考え方、既に栗見に毒されてるだろ」
認めたくはないけどさ。そりゃあ、年中同性同士の絡みを妄想するような幼なじみとほぼ毎日一緒にいたら、少しは思考が汚染されても仕方ないと思うの。
だがあくまで考え方の話だ。
あんな非道な蛮族共と同類扱いされては俺の名誉に関わる。
他人の趣味をあれこれ言いたくはないが、別に俺は男同士の恋愛事情を見て興奮しないし、BLのために犯罪を犯そうなんてこれっぽっちも思わない。
……あれ、リウ基準で考えると自然と腐男子に物騒なイメージ湧くんだけど、気のせい?
浮上した疑問はとりあえずほっといて、タブレットを起動させて真面目に授業を受けようと切り替えた瞬間を見計らったかのようなタイミングで、某アプリがメッセージの受信を知らせる。
急用が多い生徒会役員は、授業中でも普通に電話等の使用が可能だ。ただし、他での使用はバレたら即刻没収。
服装面に関しては緩いのに、授業態度とかは意外と厳しいんだよな、この学園。
せっかく真面目に授業を聞こうとしたところで誰だよくだらねえ用事ならどうしてやろうか、なんて思いながら携帯を開いてみれば相手はリウ。
内容を一瞥し前へと顔を向ければこちらを見て含み笑いをする幼なじみ。俺が携帯を投げ捨てそうになったのは言うまでもない。
そこには幼なじみ様による、嫌みったらしいお礼のメッセージ。
『祝、王道展開第一歩!』
『協力ありがとう(はあと)』
『優しい幼なじみを持てて僕しあわせ!』
という、あたかも俺があいつのために、自発的に王道展開を作り上げてやった、みたいなニュアンスの。
きいいいい腹立つううう。
ルーズリーフをもう一枚取り出し、今度はリウに対する呪詛を延々と書きなぐる。
その際シャーペンのしんを右横の生真面目そうなクラスメートAへ何度も何度も飛ばしてしまったことは不可抗力以外の何ものでもない。ごめんAくん。
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