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人間って、不思議。
何故そんなことを言い出したかというと、人間というものは嫌だ嫌だと思うほど、時間の経過を早く感じてしまう生き物で。
要するに、あっという間に来てしまった。
『食堂イベント』という、リウが王道学園において必要不可欠と豪語する魔の時間が。
転入生について訊かれたときに軽くあしらったのが悪かったのか、4限目が終わると同時に双子が教室に突撃して俺を捕獲。生徒会室まで連行。そうしてあれよあれよと「時期外れの転入生を皆で見に行こう」大作戦に付き添うはめに。
避けるための努力は最大限した。
大人数で押し掛けても迷惑です、悪目立ちします、やめておましょう、と、生徒会のヤツらが不自然に思わない程度に主張した。
でも結果は四対一で多数決の原理により引き下がるはめに。クソ、民主主義。
ん、一人足りない? ああ、睡眠が最優先っていうわんこが一名。問答無用で拉致されてましたが。
渋る俺を両サイドから引っ張る双子に、積極的に食堂へと赴く会長、へらへら笑いながら続く会計と、意識があるかないか判断が難しい寝ぼけ眼の書記。
そしてこれから向かう、食堂という名の地獄。
「転入生はどんな子なんだろーねぇ」
「「りっちゃーん、いい加減教えてよっ」」
「……さて、どうでしたっけ」
返事が曖昧になってしまったのは致し方ない。黒いマリモみたいなヤツって言ったら、コイツらどんな反応するだろう。
今更だが俺の転入生を気に入ってる設定、どうにか撤回できないものかな。無理かな。
最初のうちは気楽に王道ルート乗っかっちゃったけど、よくよく考えれば自分から面倒ごとにドボンしてしまったわけで。人生リセットボタンを探している。
でも、まだ望みはある。
どこからどう見ても変装だと一目瞭然のあの格好を、生徒会の誰かが指摘してくれたら。少なくとも腐男子の筋書き通りの展開とは行かなくなる、かもしれない……。
「……りお? ど……たの」
「っ、いえ。何でもありません」
おっと、危ねえ……。
今は周りに彼らがいる。さすがは鼻が利くわんこ、考え事に耽るのもほどほどにしなければ。
とにかく、何も悲観することはない。
俺が何かせずとも、コイツらが少しでも疑ってくれさえすれば自動的に王道ルートから逸れていく可能性は低くない。むしろその方が確実な気もしてきた。
結論、他人任せでいいのでは。
ということで俺は傍観者気取るとしますか。ひとまずは、流れに身を委ねることとしよう。
我関せずを決めたところで、いつの間にか目の前にいた会長に意識を傾ける。
意外に距離が近い。隠すことなく眉根を寄せた。
「何ですか、人様の顔をそんなにじろじろと。見物料取りますよ」
「お前、さっきから怪しいんだよ。……まさか、ソイツに惚れたってんじゃあねえだろうな?」
なんというか………鋭いと言えばいいのか、的外れだと言えばいいのか……。
わんこのような野性の勘とは違って、会長はわりと確信を持って俺の情緒を詮索してくるのだから非常に厄介である。
まあそれはさておき、優先すべきは距離の確保だ。
「あなたはいちいち近いんですよ。半径一メートル以上は距離を空けて下さい。視覚的にも精神的にも死にそうです」
「……テメ、食うぞコラ」
そう言った後、顔を覗き込んでくるバ会長を反射神経ですっと避ける。
野郎に顔近付けられて喜ぶのは女か男の娘だけでいい。俺の場合、至近距離に男の顔なんぞ鳥肌の理由としては十分だ。
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