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 気付けば、他の役員らも興味深そうにこっち見ていた。そんなに転入生が気になるか。ひとまず勝手な想像はやめていただきたい。  惚れたって? ねぇよ。  だがしかし、気に入った設定を今さら覆すことも出来ないので、結局曖昧な返しとなる。 「あなたがたのご想像にお任せしますよ」 「結局どうなんだよ……」 「「りっちゃんのケーチ」」  うっせ黙れ。  見れば………そう、見れば、分かるんだ。  気付けば目の前には食堂へと続く回転ドア。そこを抜け、深々と頭を下げる食堂スタッフに見送られながらロビーを通り、豪華絢爛な両開きの扉を押し開ければ、そこが食堂。  というか今さらだが、普段滅多に揃わない生徒会役員フルメンバーが食堂に向かうとか、俺としては滅茶苦茶遠慮したいんですけど───…。 『キャアァーーッ!!』 『ウォオオァーッ!!』  手遅れってことですね、了解。 「どうして皆様お揃いでっ……!?」 「やだ、今日に限ってメイクしてない!」 「やった、《闇豹》様と目があった! 視線だけで孕めそうですぅっ」 「《光の君》……そのふつくしい御足でオレを踏んで罵ってはあはあ」 「《黒薔薇》様ぁー今夜いかがですかー!!」 「書記様のおねむ顔、尊み秀吉!」 「ソラちゃん、ウミちゃん、今日もかっわい……今ロリっつったやつ誰だゴラァッ」  ……正常運転な声が見つからない。  これだから全員で食堂なんて来たくなかったんだ。  俺たちが入った途端、わらわらと集ってきた生徒によって左右に別れた人垣。  その真ん中を、上機嫌で突き進むのは双子、まわりに手を振るのはマツリ、堂々と闊歩する会長と、総無視なタツキは慣れてる光景だろうが、ほんと勘弁してくれ。俺庶民なんですってば。  こんな派手な出迎えはそう簡単に慣れるものじゃない。無表情に徹してはいるが、この状態キープで王道に会っても大丈夫かな俺。  どうせ食堂のどこかに居るだろう腐男子が観察してる中、ボロが出ないだろうか。  ……いや、王道がいない可能性だって捨ててない。もしかしたら教室で昼飯食ってるかも。どうかそうであってくれ。 「転入生くんでっておいでー」 「でないと目玉を」 「双子ぉ、みんな食事中だからそんなこと言ったらだーめ」  率先的に、和気藹々とあたりを見渡すのは生徒会二年組。  双子の替え歌、限りなく的を射ていると思うのは気のせいか。だってあの転入生、見た目黒マリモじゃん。屋根裏部屋に住んでそうじゃん。 「……すこー」 「おいタツキ、歩きながら寝んな」  そして生徒会三年組も遅れることなく後ろをついてくる。  久々に訪れた食堂の様子に、早くもストレスが溜まってきた。  食堂とは名ばかりのここは、ヨーロッパの建築様式を意識した超高級レストラン。  赤絨毯が敷かれた床、クラシックテイストの柱や円形テーブル、チェアなど、どれも高級感漂う艶やかな飴色を湛える。  成績上位者や役員、ランキングの高い生徒は二階、一般生徒は一階と決まっており、二階からは一階を見下ろせるという優越感付き。  吹き抜けで日当たりもよく、料理も有名シェフによる最高級の贅を取り揃えたリッチな食生活が此処にある。  しかしながらこういった派手な出迎えや注目に曝され続けた結果、俺の足は遠のくばかり。 「…………うわ、居た」  僅かな期待も打ち砕かれ、果たして例の転入生は食堂にいた。  あんな不自然な黒い塊、見間違えたかったけど見間違えるわけもない。  ここで声をかけないという選択肢も残されてはいるが……やめておこう。双子が今度は転入生の寮部屋に押し掛けようとかいいかねない。  赤絨毯のおかげで、足音もなくその場所へと到着する。確信をもって進む俺のあとを、役員たちも追ってくる。  黒々とした後頭部が特徴の王道は、こちらに背を向けた状態で料理に夢中になっていた。代わりに、王道と対面する席に座る二人が、俺たち生徒会を見て唖然としていた。  声を掛けるまでが副会長の仕事。最初だけは傍観者を気取るわけにもいかない。非常に気が進まないが。  スフレオムライスに夢中な王道の肩を、とんとん、と優しく叩く。  

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