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「こんにちは、ルイ」
「むぐっ……んっ? あ、リオ……!?」
ごっくん、とライスの塊を飲み込んだ王道がソファ席から勢いよく立ち上がる。や、別に立たなくていいのにまじで。
というかやっぱ呼び捨てで定着するのか。生徒の反応を考えると、あんまり推奨しないけど。
「呼び捨てだと? 呼び捨てだと……!?」
「おのれっ、幹 先生や槻 くんたちに飽きたらず、あろうことか副会長様にまで馴れ馴れしく……!!」
「副会長ルート確定キターー!!」
『 血祭りじゃぁあああ!! 』
食堂に響く悲鳴と、王道への罵声。その他雄叫び。
やっぱりこうなるか……。予想できていたとはいえ、ここまでブーイングがひどいとはな。確かに馴れ馴れしいとは思うが、名前呼びってだけでこんなに騒がれるものなのか。あと一人なんか変なのいる。
しかし剛胆なのか鈍感なのか、周囲の反感などまったく頓着していない王道は無邪気に笑うと(実際口元しか見えないので大多数からすれば邪気しか感じ取れない)、自然な動作で俺の手首を引く。
細い腕のわりに、大きなてのひらだと思った。
「なあ、せっかくなら一緒に食べないか!? オレの友達、紹介してやるよ!」
「気安く光様に触るなクソマリモォ!」
「今すぐ離せよ童貞野郎!」
「さもなくば副会長様の彼ぴっぴがお前の奥歯ガタガタ言わせる同人誌書くぞ! 書くぞ!?」
いや、別に友達とか紹介しなくていいけども。
それよりも俺の腕を掴んだことでまわりの悪口雑言が尋常ではないのだが。あとやっぱ絶対一人なんか変なのいる。俺に彼ぴっぴなんかいねえわ。
王道の友人とおぼしき片方が控えめに王道の強引な行動を窘めているにも関わらず、グイグイと手を引かれる先は王道の隣の空いた席。
演技続行中なので顔を顰めることは出来ない。しかも意外と力が強いだと……。俺のが背ェ高いのに、地味にショックだ。
「───うちの役員を、俺の許可なく食事に誘えるとでも思ってんのか」
不意に、王道が引っ張る俺の手首とは反対の二の腕をぐっと後方に引かれ、王道の強引な引き込みから無事解放される。
俺を引き寄せた手の持ち主は、俺を横目に見下ろして薄ら笑いを浮かべる会長様。「お前こんなのがいいのかよ」、みたいな顔。役員の食事の相手があんたの許可制だったなんて俺ははじめて聞きましたけど。
「彼ぴっぴ会長様ーー!」と黄色い声をあげる生徒の期待を裏切るように、掴まれた腕をやや雑にふりほどく。
「随分隠したがるからどういうことかと思えば……リオ、お前まさか、こういう陰気なのが趣味なのか?」
「会長キッツーい。いくらホントのことでも、本人の前で嫌味言うことねえのにー」
「……なんとでも」
「へえ。否定しないのか」
ところどころから悲鳴が聞こえた。これでもう後には退けない。
バ会長とバ会計が品定めするように転入生の上から下までをじろじろと眺める。
どうやら王道をただの陰気な見た目の人間だと認識したようだ。そもそも、「転入生が変装する」という発想があるのとないのとでは、スタートラインから違う。
つまるところ────変装について気づいた様子は、残念ながらない。
クソ、期待した俺がバカだった……!!
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