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 生徒会会長、ひいては会長が生まれながらにして持つ名の影響力は、生半可なものではない。  会長が白といえば白という人間がこの学園にはごまんといる。つまり会長が王道を邪険に扱えば扱うほど、その対応が「学園の常識」となってしまう可能性がある。  それは下手をすると、単なる反感よりも質が悪い。  これ以上は面倒になりかねないと判断。  風紀の世話になるのだけは御免だと、会長の袖を引っ張ろうと半歩前に出たときだった。  唇を真一文字に結んでいた王道の唯一見える口元が、かすかに歪む。 「それなら《闇豹》は、――――」  その先は、聞こえなかった。  絶妙とも言えるタイミングで、午後の授業を知らせるチャイムが鳴ったから。  昼食時間終了の鐘の音は大きい上に長い。  聞き耳をたてていた生徒はもちろん、会長の袖を掴もうと近くにいた俺にさえ、王道の声が聞こえることはなくて。  ただ会長の雰囲気がハッキリと変わったのを間近で感じとる。  なんてこったい。いやな予感しかしねえ。 「お前、関係者か……?」  王道を見詰めすぅっと細まったバ会長の妖しい瞳に俺は瞬時に絶望を悟る。  辛うじて聞こえた《闇豹》という単語。  学園の生徒にとっては『別名』だが、会長のチームでの『通り名』も同じものだ。  俺を《コウ》という通り名で呼んだのと同じ。王道が族の関係者だからこそ無意識に口に出された呼び名。  つまり、あれだ。王道が族関係でウッカリ秘密バラしちゃって、それに会長が気づいて、お前何者だ気に入った、って食堂イベントにありがちな王道展開だろ?  今までの流れからして、予想外だ。 「ふ……、んぅ」  --ふっざけんじゃねぇえ!  最初から計算されたかのように真っ直ぐ王道ルートを進んでやがる!  授業に行くか食堂で続きを見守るか右往左往していた生徒諸君の視線はもう食堂の隅に釘付け。そりゃあそうだ。  唯我独尊俺様生徒会長が、一生徒、しかも奇怪な転入生に、この注目された状況下でディープかましやがったからな!  こくりと息を呑む音が他方から聞こえる。  俺は目の前で繰り広げられる男×男に寒気がして思わず後退り、目が合ったマツリに気づいてとっさに表情を取り繕った。  やっぱバ会長はバ会長だった。  王道ルートを裏切らない学園屈指の絶倫非常識野郎、手を出さないと淡い期待を抱いた俺が間違ってたんだ。  嗚呼、ほくそ笑む腐男子の顔が目に浮かぶ……。 「ん、はっ……てッめ、何を」 「はっ、何だ。この程度でへばってんのか?」  長い間濃厚に絡まってた舌が離れ、王道はへろへろと腰を抜かす。  それを見下ろす会長が自分の唇を舐める仕草と、王道の吐息混じりの声にタチネコ退場者レストルーム行きが続出。しばらく個室には近付かないようにしよう。  腰に響くような低い声が、惨状を見下ろしくつりと笑っている。その風格はまさに王者と言うに相応しい。  撒き散らされる男の色香。僅差だったとしても、ランキングであの(・・)風紀委員長を上回るだけのことはある。  王道の顔は次第に歪み(目が隠れてる分非常に不気味だ)、勢いよく立ち上がったところで会長の鳩尾へ一発。しかし紙一重で躱され、王道の拳は空振りに終わる。 「、……危ねぇじゃねえか」 「き、気色悪いこと、してんじゃねぇよ!」  こればっかりはまあ、王道に同情する。  初対面の男に公衆の面前でキスされた、なんて下手したらトラウマもんだろうに。  

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