24 / 442
10
しかし周りの反応はといえばチワワ共はバ会長にウットリ魅入るばかり。ここは普通、王道に罵声浴びせるのが親衛隊としては適してんじゃねえの?
「俺は寛大だ。今回は特別に許してやる。それに、反抗的なヤツは嫌いじゃない……まあ、限度もあるがな」
だ、れ、が、寛大だって?
笑えない冗談はヤメロ。そして素朴な疑問だが、限度、と言った後こっちをチラ見した会長は俺の後ろに一体誰を見ているのだろうか。
「誇れ。俺はお前に興味が沸いた。ルイ、──俺に、平伏させてやるよ」
『…………グハッ!!』
だから何故! そうなる!!
ざわりと食堂内が揺れ、何人かのMい生徒が鼻血噴出したけどこれのどこがいいんだそれでいいのか生徒諸君! 王道でさえ口元を引き攣らせてる始末。いやはや、コイツにまで引かれるとかさすがバ会長。
そして終始疲れた表情であろう俺の耳へと、次々に外野の音声が流れ込……、
「この浮気者ぉっ! ……あの、反抗してみましたが《闇豹》様、どうです? 僕をねじ伏せたくなりませんか!」
「《光の君》、嘘ですよね。僕らを騙しているだけですよね。はい、我々の業界ではご褒美です」
「僕は《黒薔薇》様を信じてる。マリモ絶対駆逐するマン」
「ンンンッ、わんこ攻めが見れない非王道パティーンと来ましたか! やっべ、涙が……。あ、ハンカチありがとう」
「べっ別にお前のためじゃねぇし!」
流れ込んで…………えっとだな……。
ギャラリー全員、主張があまりにも激しすぎる。ここの生徒会信者は些か変人が多いことにはもう触れまい。
「あーあ。ルイちゃん、会長のせいで孕んだんじゃない?」
「ルイが穢れたー!」
「汚されたー!」
「「平伏とかカッコつけて、ばっっかじゃないのー!?」」
「……不潔です。今後一切目を合わせないで下さいこの変態」
「お前等な……」
もはや言いたい放題にバ会長を罵る役員達(タツキを除く)。
王道を慰めるようにマリモ頭を撫でるマツリ。庇うようにバ会長の前に立つ双子。俺もこの辺で参戦しとかないと怪しまれるだろうから安全圏でバ会長に白けた視線を送る。
ちなみにタツキが真横で俺をジッと見てるから変に緊張した。捨てられた子犬、的な視線が容赦なく刺さる刺さる。
なんかもう、ごめんなさい。
罪悪感に駆られながらも、別方向から視線を感じたので自然と目はそちらへ。
そこで見つけたのは、未だ佇むギャラリーの中食堂の二階で手すりに凭れかかり親指をグッ! と立てるリウ。
そして少し離れたところから、こちらを無表情で見下ろす紘野の姿……。お、お前も来てたのかよおおお。
そして口パクで、リウ。
---合格。
やっぱり俺は何も見てないし、何も聞こえなかったことにする。
ぐーきゅるるるるー…
「…腹、減た……」
「……た、タツキ。…えと、お気の毒ですが、我慢して下さいね?」
そういえばもう昼休み終わったじゃん。育ち過ぎた大型犬が飯食えてないのに。
真横にいるんだから当たり前だが、バッチリ聞こえました。
犬耳を垂らすわんこに癒された今日この頃。あとでケータリングでも頼んでやろう。
終わった。
ついに幼なじみに贈る公開食堂イベントが終了し、俺の何かも終わった気がする。
でも実際はまだ始まったばかり。
これから待ち受ける困難が、さらなる非日常へ俺を引きずり込むことを、この時の俺はまだ知らない。
そして。
「───思った通り。……少し、早い」
数分単位で早まっていた予鈴の時刻を。そのことに気付いた人間のことを。
俺はまだ知らないでいた。
ともだちにシェアしよう!