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設定も脈絡も意味不明な状況で俺を親の敵に仕立て上げる馬鹿が今ここに。聞いて驚け、これで国語担当だ。頭が痛い。
「勇者様よくぞご無事でした!」
「藤先生、今日もかっこいいですー! 黙ってさえいれば!!!」
「潔いまでの残念なイケメンぶり、そこに痺れる憧れるっ!」
「おう。一限目からお疲れ生徒諸君。俺は早起きな君たちを担任として誇りに思う」
間違いのないように言っておくと、最後の発言は一教師のものだ。
そもそもこの時間が自習だったのもこの教師が朝から五限目の今まで一向に姿を見せなかったのが原因だ。
堂々たる重役出勤にも関わらず悪びれることなく堂々と入ってきて、自習中の空気をなんの躊躇もなくぶち壊すような一教師の発言がこれである。
遅刻欠勤当たり前、2.5次元に嫁が居ると恥じも外聞もなく公言し、勤勉? ナニソレおいしいの? がデフォな公務員。
総合するとクソみたいな大人。嘆かわしいことこの上ない。
「あ、おはよう魔王様。探したよ魔王様。三分くらい」
「五限目ですね、クズ先生」
「ちょちょ、せめて八つ橋にくるんでくれ魔王様、美味しく食べるから」
「そもそも魔王とは」
「それが聞いてくれよ。昨日クエストであなたによく似たビジュの魔王 とエンカウントしたんだけど、あいつマジつえーの。無理もう自信無くした。でも遭遇時のグラフィック神だからまた会いたい。まるで恋」
「そのまま現実世界に帰ってこなければいいのに」
「やだ魔王様冷たい」
この男はSクラスが誇る野生の怠慢教師、藤戸 センセイ。
親しみを込めて藤先生と生徒から呼ばれる彼だが、その性格はオタクでゲーマーで怠慢という三重苦を備えた残念なイケメンである。
ただしこの学園の基準だとイケメンは免罪符。だからこの教師の怠慢も全部愛嬌で流される傾向にある。
この大人を見ていると世の中容姿よりもっと大事なものがあるだろうと切実に思う。なんて理不尽な世界なんだ。
「何か御用でしょうか、生徒会顧問の人」
「清々しいほどの他人行儀に先生びっくり」
「早くご用件をお伝え下さい大人1」
「せめて教師Bとかにしろ下さい」
これは本気で謎でしかないんだが、何故このようなだらけきった大人が生徒会の顧問を任されているのだろう。
もっと適任者がいたはずだろうに、よりにもよって何故これが。やはり顔か。顔なのか。
そんなことを思われているとも知らず、窓際からニ列目最後尾の俺の席へと近寄ってきた藤戸氏は、お辞儀90度の角度でとある一枚の用紙を俺に手渡した。
プリントの見出し文を目でなぞり、もともと高くもなかった気分が、一気に地の底まで落ちる。
『新入生歓迎祭について』
……どうやら俺を過労死させたいらしい。
新入生歓迎祭とは読んで字のごとく、入学して間もない一年生たちを迎えるための最初の一大イベントである。
と、口だけで言うのは簡単だが、この学園のイベントごと、特に『祭』の名がつくものはとにかく規模が大きい。それに比例して、期待値も大きいのだ。
新歓の企画運営は例年、生徒会が担う。
去年は全校生徒参加型の宝探しで、それより前は記録によるとハイキングだったり、温泉めぐりだったり、クイズ大会だったりと、ラインナップを見てわかるとおり一貫性がない。
ちなみに今年は、鬼ごっこの路線でほぼ企画が固まっていた。リウが「新歓といえば鬼ごっこ! 鉄板!」とことあるごとに絡んでくるので、ダメ元で提案してみたら通ったのである。本来なら、王道が入学した数日後に予定していた行事だった。
───まあ、今の学園情勢と生徒会の状態を考えれば、到底新歓なんてできる状況じゃないけどな。
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