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企画を任された俺の判断基準としては、全校生徒が楽しめて、俺が安全で、王道萌えがない、リウが詰まらなさすぎて灰になるくらい萌えない行事、を是非とも推したいと思う。
たとえば……たとえば……うーん。
「はーいはいはい。心霊スポット巡り」
「却下」
「えぇー、例えばさ、二人一組にして、王道クンが実は怖がりで、そのペアが会長、という妄想を組み立ててみたら非常に萌え展開な予感したんだけど、だめ?」
「だめ」
挙げられたリウの手をやんわり、しかしさりげなく爪を立てながら押し下げる。
却下だ却下だ。
思考に介入して来るな腐男子。祟られろ。
「とにもかくにも、期限は一週間。それ以上の延長は認められないってさ。理事長より」
たった一週間で、企画を一から建て直し、か……。
今日が5月のちょうど中頃。月末には中間考査が控えているし、そのための勉強期間も削るわけにはいかないから、一週間猶予があるといってもけっこうギリギリだ。
明日、遅くとも明後日には準備を始めないと。
だが、通常業務すら満足に回っていないこの有り様で、さらに新歓。考査がある以上、日々の勉学だって手は抜けない。
まずは何から手をつけるべきか……頭を悩ませていると、藤戸氏に肩をぽんぽん叩かれた。
「まあ、無理は禁物ね。今日のところは、たまには息抜きしてもいいんでない? 俺みたいに」
「……息抜きが生活の9割を占めている方に言われても」
「励ましたのに辛辣。……あ、それと、イッチーにもちゃんと授業に出ましょうねって、魔王様からも言っておいてよ」
「あなたが言ったところで説得力の欠片もありませんしね」
「まあそうだけども。そうじゃなくても、イッチーは魔王様の言うことしか耳を貸さないでしょー」
俺の隣、イッチーこと(壱河 )紘野氏は現在、所在不明である。多分サボりだ。そもそも一日中机に着いてる場面を見たことがない。
それでも、昼前くらいまではいたような気がするのに、いつ教室から出ていったのかまったく気づかなかった。隣の席なのに。だいぶキてるな、俺も。
くるりと背を向けた藤戸氏が追い立てるように「いってらっしゃーい」と俺に手を振る。
つまるところ、『紘野探しを口実に授業サボっていいよ』と解釈してもいいのだろうか。同時に、息を抜いてきなさいと。
「……リウ、ということなので、ちょっと行ってきます。手伝ってくれてありがとうございました」
「いいよ、だって僕ら親友だもん! 次の授業のノート取っててあげるから、そのまま紘野くんとおサボりおデートを楽しむといいよ!」
「…………ああ、ウン」
キラッキラの笑顔で俺を送り出そうとするリウさん、ノートを取ってやる代わりにのこのこ授業に戻ってくるなと仰る。
デートなんて浮わついたもん誰がするかよ、と言ったところで「妄想の余地が必要」だとか「語られない空白を楽しむのが腐男子の習性」とかよくわからない理屈を押し付けられるのは経験済みだ。深くは触れない。
処理済みの書類やノートパソコンをまとめてスクールバッグに収め、立ち上がる。
うわ。やべ。
机に突いた片手でバランスを取り、意識的に足先へと体重を乗せる。
軽い立ち眩みだ。眠い。
今は教壇の藤戸氏の方へクラスの注目が集めているおかげで、俺の様子に気づいたクラスメートはいない。後ろの席でよかった。
「……」
「…………」
と、思ったら、右隣のクラスメートAとばっちり目があってしまった。
情けないとこを見られてしまった。失態。
変に気を使われて周囲に気づかれるのも嫌なので、笑ってやりすごそうとAにいつもの作り笑いを向ける。
しかし俺が何かを言う前に、Aは興味など欠片もないとばかりに、フン、と鼻を鳴らして前を向いた。
これはどうやら、……嫌われてる模様。
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